「施設に入ること自体が虐待になりうる」 国際人権NGOが子ども養護で報告書

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   生みの親が直接育てることができず、「社会的養護」が必要だとされている子どもが国内に約4万人もおり、その大半が児童養護施設で暮らさざるを得ない状況は、「弱い立場にある数万人の子どもたちから、自立した実りのある生活を奪っている」――そんな調査報告書を国際人権NGOのヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)が2014年5月1日発表した。

   HRWが2009年に東京事務所を開設して以来、日本について報告書を出すのは初めて。

欧米では7~8割が里親に預けられる

左から親善大使を務める女優のサヘル・ローズ氏、主に報告書を執筆した猿田佐世氏、HRW日本代表の土井香苗氏
左から親善大使を務める女優のサヘル・ローズ氏、主に報告書を執筆した猿田佐世氏、HRW日本代表の土井香苗氏

   報告書によると、「国際人権基準では、社会的養護下にある子どもを施設に収容するのは最終手段と定められている」。実際に他の先進国では、このような子どもの大半が里親委託や養子縁組で育てられているという。

   日本では児童養護施設での虐待を描いたドラマ「明日、ママがいない」(日本テレビ)が話題になったばかり。HRWは会見で、報告書の発表を通じて「『施設に入ること自体が虐待になり得る』ということについて公の場で議論したい」としている。

   HRWでは、「社会的養護」下にある子どもたちや、かつて施設に入っていた人、施設職員など200人にインタビューして報告書をまとめた。その中では、大規模施設での生活について

「子ども1人あたりの占有スペースが狭く、愛着関係を築く機会が極めて限られる」

と指摘。施設を出た後も状況は厳しく、

「失業に陥ったり、将来性のない低収入の仕事に就くことも多い。また高等教育の機会も限られ、ホームレスになる子どももいる」

という。

   厚生労働省の調べによると、要保護児童のうち、里親に委託されている人の割合は日本は12%。逆に言えば、残りの9割近くが児童養護施設や自立援助ホームなどの施設に入所していることになる。これに比べて、欧米での里親委託率はオーストラリア93.5%、米国77.0%、英国71.7%など。アジアでも香港79.8%、韓国43.6%と、日本とは大きな開きがある。

「あすママ」問題、「施設に入ることそのものに関する議論のなさに驚いた」

   この背景としてHRWが指摘するのが、子どもの預け先を判断する児童相談所の問題だ。時間や手間がかかる養子縁組や里親制度よりも、施設入所を選びがちなうえ、里親よりも施設入所を好む実の親の意向が影響することも多いという。

   報告書では、児童福祉法を改正して子どもの預け先を家庭裁判所などの独立機関が行えるようにし、里親や養子縁組を増やすことなどを求めている。

   「あすママ」問題については、HRW日本代表の土井香苗氏が

「施設に入ることそのものに関する議論のなさに驚いた。施設で行われている虐待については様々な議論があったが、『この子どもたちは、なぜ施設にいないといけないのか』について議論をした人は皆無といっていい」

と、日本国内の無関心を指摘。

「この報告書を公開することで、『施設に入ること自体が虐待になり得る』ということについて、公に議論を始めたい」

と話した。

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