注目度No.1だった楽天の松井裕樹がついに1軍ベンチから外された。
ストライクが入らないという投手にとって致命的な理由だ。まさに天国から地獄へ…。
「ラストチャンス」登板でもいきなり1回5四球
2軍落ちとなった登板は2014年4月23日の西武戦。開幕から3連敗を喫し、星野監督から「ラストチャンス」と宣告されたマウンドだった。ところが、1回表に5四球という信じられない立ち上がり。その後、味方打線が得点を重ねて勝ち越しても、すぐ失点する乱調ぶりで、5回8四球という「ノーコン」ぶりにベンチもあきれかえった。
なんとか初勝利を、と我慢してきた試合後の星野監督はむしろ悲しそうだった。
「早く1勝を、と思って勝ち投手の権利である5回まで投げさせたんだけれどね。ダメだったな」
いきなり四球を連発した松井は、おそらく自分を見失ったのだろう。とにかくストライクを投げなくては、との思いが強かったのか、全く余裕が感じられなかった。
「前回と比べ改善できた部分もあった。ボール自体の感触は悪くなかった…」
強がりとも思えるコメントを残したが、行き場所を無くしたような自信喪失の表情だった。
翌日、首脳陣は松井の代わりに昨年のドラフト1位森雄大を1軍に登録した。その日先発した森は、プロ初勝利を挙げている。プロの世界は厳しい。
「もう(1軍で)投げることはない」
星野監督から恐れていた言葉が出た。
「投手としてのABCを学んでもらう」
2軍での厳しい練習が待っている。もう、お客さん扱いはしない、という現実である。松井にとって初めて実力の世界を実感することになる。
松井の制球力については、おおよそ見当はついていた。下半身が硬いから投げ終わったあとが一定しない。つまり上半身だけで投げているからコントロールがあやしくなる。高校時代は球威と大きな変化球だけで抑えられたが、プロはそれにコントロールがなければ通用しない。
それと走者が出ると、「盗塁自由販売」といえるセットポジションの未熟さがあった。左投手なのに走者を留める基本動作ができていない。それは甲子園で投げているときから分かっていた。
星野監督の指摘はそのことなのである。
「星野監督がそんなことを見逃すはずはない。キャンプでとっくに見抜いていただろう。これで本来の楽天に戻って試合ができる」
多くの専門家はこう見ている。人気先行の選手はこれまで何人もいた。本人もつらいが、周囲も神経を使う。
松井の開幕1軍は入団時の約束だったのだろう。ルーキーでもっとも話題となっていただけに、球団も営業面を考えてそれを望んだことは想像に難くない。
2012年夏の甲子園で、1試合で10連続を含む22奪三振という記録を打ち立て、松井は一躍注目された。しかし、気になったのはその後の秋からの内容だ。神奈川県の秋季大会では早々と敗れ、翌年のセンバツはなくなった。さらに昨年夏は予選敗退。あれだけの力を持ちながら昨年は一度も甲子園に出られなかった。「勝負運のない投手なのか」という気がしてならなかった。
松井を預かった2軍の投手コーチも緊張することだろう。なにしろ金の卵だ。話題の投手といえば、日本ハムの斎藤佑樹も2軍に落ちた。4月は「ユウキの悲劇」といったところである。
(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)