韓国・珍島沖で起こったセウォル号沈没事故から1週間。行方不明者の救出活動が続くなか、少しずつ事故原因につながりそうな証言も伝わってきた。
過剰な改造や過積載、契約社員の多さ、安全教育の軽視…。 どれも耳を疑うようなことだ。いずれも、急成長を遂げてきた韓国企業が利益至上主義に走った「ツケ」で、そこには構造的欠陥が潜んでいるのではないか――。
当初の申告より多い乗客、多い積み荷が明るみに
2014年4月16日に起ったセウォル号の事故原因について、韓国メディアなどは、いくつかの問題点を指摘している。
韓国・海洋警察庁などの調べでは、セウォル号は沈没直前に急激に方向転換していたことがわかっている。生存者の証言から、急旋回の過程で貨物が片寄ったため沈没までの時間が短かった可能性があると指摘。しかも事故当時、過積載だった疑いが濃い。
セウォル号の最大積載量は3794トン。運行会社の清海鎮海運によると、事故当時は乗用車やトラック、2.5トン以上の貨物車両など180台と、貨物1157トンなど合計3608トンの車両と貨物を積んでいた。
見た目の積載量は100トンほど少ないが、車両は積載可能台数を30台超過。そのうえ、報告外の貨物やコンテナが積み込まれていたことが判明しており、通常の「3倍」もオーバーしていたとの報道もある。積み荷は出港間際まで運び込まれていたとされ、しっかり固定しないまま港を出てしまったとされる。
一方、乗客は定員921人に対して、当初の発表では一般の乗客106人に修学旅行の高校生と教師340人、乗務員が29人とほぼ半分だったが、海洋警察庁の関係者の話として「申告がなかった乗客が50人程度いる」との情報も。車両運転者が申告せずに乗船したとみられるからだ。
しかし、定員数も積載量も船体の改造によって増えたものだ。2014年4月23日付の韓国・聨合ニュースは、「高速運航」「旋回操作」「船体改造」が事故の3大原因と分析している。
セウォル号は2012年10月に日本が韓国に売却。今回の事故後に明らかになった総トン数は6825トンで、新造時(1994年6月)から800トン以上増えていた。
仁川地方港湾庁によると、セウォル号は輸送力アップのため、船の後方の屋外空間を室内に改造した。定員は840人から956人に増えたが、船の上部に新しい構造物ができて重心が高くなったため、「復原力」が低下して転覆する事故リスクが高まった。
そんな不安定な船を高速運行すれば、転覆のリスクは高まるのが当然というわけだ。
船長や航海士、操舵手、機関士らは15人中9人が契約社員
さらに、乗客を助けずに脱出した船長のイ・ジュンソク容疑者(68)が契約社員であったことも判明。朝鮮日報(4月21日付)などによると、イ容疑者は高齢のため、セウォル号の運航会社である清海鎮海運との1年契約だった。月給は270万ウォン(約27万円)で、年収ベースで3240万ウォン(約324万円)。これは他の運航会社の60~70%という。
清海鎮海運に勤める全乗務員の半数以上が6か月から1年の契約社員で、なかでも「船舶職」と呼ばれる船長や航海士、操舵手、機関士らは15人中9人が契約社員だった。
日本では、船長の年収はおおむね1000万円を超えるというから、待遇の差には驚くばかり。もちろん、そこには人命優先で常に危険を伴う職業であることがある。
さらには、ある乗務員の証言から、非常時のための安全訓練などを受けていないこともわかった。これまでに明らかにされた同社の監査報告書では、船員らの「研修費」名目の2013年の支出はわずか54万1000ウォン(5万3000円)。広告宣伝費(2億3000万ウォン)や接待費(6060万ウォン)と比べて極端に少なかった。
運行管理規定では、10日おきに消火訓練や人命救助、防水などの訓練を受けなければならないと定めているが、同社がほとんど実施していなかったことも伝えられている。
ただ、こうした船員教育費を抑える傾向は、韓国の運航会社にはつきものらしい。
多くの死者、行方不明者を出した海難事故だが、背景にはこうした企業の利益至上主義と人命軽視があったのではないか。これらは、急成長した韓国企業に共通している可能性もある。