旧役場庁舎一部保存へ【岩手・大槌町から】(42)

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解体工事のために仮囲いの準備をする作業員=2014年4月10日、大槌町の旧役場庁舎
解体工事のために仮囲いの準備をする作業員
=2014年4月10日、大槌町の旧役場庁舎

   当時の町長や職員合わせて40人が犠牲になった大槌町の旧役場庁舎を震災遺構として保存するか、それとも解体するか。遺族や町議会に解体論が根強くある中で町は一部保存の道を選び、4月10日、それ以外の部分の解体工事に着手しました。


   保存する方向で検討が進められるのは大時計がかかる正面の庁舎部分で、過去に増築された西側、東側、北側の庁舎は順次、解体されます。解体されるのは全体の7割を占めます。作業は5月に本格化し、7月末までに完了する予定です。工事費は2,840万円。全額、国の震災関連予算があてられます。保存される部分については、今年度、具体的な保存、整備方法が検討されます。


   碇川(いかりがわ)豊町長は、解体が始まった10日、現場を訪れて合掌し、報道陣のインタビューに答えました。「多くの職員が犠牲になり、残念で悔しい。われわれの近い所で復興を見守り、後押ししてくれているだろう。様々な議論はあるが、町民や議会の理解を得て、津波の恐ろしさを伝える遺構として後世に残したい」


工事現場で報道陣のインタビューに答える碇川豊町長=2014年4月10日、大槌町の旧役場庁舎
工事現場で報道陣のインタビューに答える碇川豊町長
=2014年4月10日、大槌町の旧役場庁舎

   解体論と保存論で町内は二分されています。町内の仮設住宅に住む上野ヒデさん(71)は保存を求めています。上野さんは中心市街地の町方(まちかた)地区で被災し、夫の強三さん(当時69)と、一人娘の芳子さん(当時33)を亡くしました。芳子さんは町役場職員。旧役場庁舎で亡くなったとみられています。ヒデさんは旧役場庁舎前に設置された献花台の見守りを続けながら、芳子さんを偲ぶ日々を過ごしています。10日も、現場を訪れて献花台に生花を捧げました。旧役場庁舎の保存を求めているヒデさんはこう考えています。

   「あの日のことを思い出したくない、旧庁舎を見たくないという人たちの気持ちもわかる。しかし、何もなくなってしまったら、犠牲者を語る場を失ってしまう。これからの人にこの場をみてもらいたい。自然の力を甘く見てはいけないということを感じてもらいたい」


献花台の見守りを続けている上野ヒデさん=2014年4月10日、大槌町の旧役場庁舎
献花台の見守りを続けている上野ヒデさん
=2014年4月10日、大槌町の旧役場庁舎

   旧役場庁舎の保存については、学識経験者や職員遺族による検討委員会では結論が出ず、両論併記の報告書がまとめられました。報告書を受けて町は震災の記憶を後世に伝えようと、一部保存の方針を決めました。しかし、最終的な結論は持ち越されており、震災遺構をめぐる対応の難しさが浮き彫りになっています。

(大槌町総合政策課・但木汎)


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