行方不明者を救い出すため「模擬訓練」を毎年実施
認知症で徘徊する高齢者を救うため、先進的なモデルをつくりあげたのが福岡県大牟田市だ。65歳人口の割合を示す高齢化率が2014年4月1日現在で32.4%に達する。全国平均の25.1%と比べて相当高い。
そこで市は「高齢者等SOSネットワーク」を構築した。捜索願が出ると警察は、地元の郵便局や駅、タクシー協会、ガス会社など協力団体に連絡する。そこからさらに郵便局員、タクシー運転手、従業員に情報が流れて捜索協力者が増えていく。民生委員を経由して校区内の公民館長、学校、PTA、商店など市民にも伝えられる。
仕組みを円滑に回す努力も怠らない。2004年度から年1回、「模擬訓練」を実施している。当日、「認知症による徘徊でお年寄りの行方が分からなくなっている」との想定で、高齢者数十人が「行方不明者」に扮し、連絡を受けた地元の人たちが市内を巡回しながら該当者と思われる人に声をかけたりして救援を試みるのだ。大牟田市長寿社会推進課は取材に対し、「参加者は年々増えています」と話した。最初はひとつの校区でのスタートだったが、2013年は全校区が参加し、人数は2000人近くに上ったという。
訓練で学ぶ重要なポイントが、徘徊者への「声掛け」だ。市のウェブサイトには、「近づきすぎず、しかし目線を合わせ、ゆっくりと穏やかな口調で」「わかりやすい簡潔な言葉で、一つずつ話しかける」といった細かなコツが書かれているが、最初はほぼ全員が話しかけるのをためらうそうだ。実は市では、国の方針に基づいて認知症に関する正しい理解を市民に広めるための「認知症サポーター養成講座」を実施しているが、これに加えて市独自のプログラムとして「徘徊者への話しかけ方」をロールプレイ形式で学ぶ講座を開いているという。ここである程度慣れてから、模擬訓練に臨むこともできる。
地域ぐるみで高齢者を救う大牟田市は全国の自治体の「見本」となっており、実際に同じような方式を取り入れるところが少なくない。一方で、近所づきあいや人間関係が希薄とされる東京でも、同様の対策は機能するだろうか。市長寿社会推進課の担当者は、「都会は人が多い分、高齢者を見かける『目』も多いはずです。あとは、関心さえ持ってもらえれば、行方不明となったお年寄りはかえって見つかりやすいと思うのですが」と話した。