大学生の就職先として人気が高いマスコミ。なかでも朝日新聞といえば、東大を始め「銘柄大学卒」ばかりが入社する、と思われていた。
ところが、2014年春に同社に入社した東大生はなんと「ゼロ」。東大生から、朝日新聞は見放されたのだろうか――。
多いときは3分の1が「東大」だったことも
2014年4月1日、朝日新聞の木村伊量社長は入社式で新入社員に向けて、「朝日新聞に携わる誇りと覚悟をもって、失敗を恐れずに挑戦してほしい」と気構えを説き、「広い視野をもったプロフェッショナルの新聞人を目指してほしい」などと激励した。
2月以降に同社に入社した新入社員は、男性50人、女性28人の計78人。ここから編集部門に53人、ビジネス部門18人、技術部門7人が配属された。
京都大、大阪大、一橋大、早稲田大、慶応大… どの新人もいわゆる有名大学の出身者。そこから競争の激しい採用試験を突破してきた。しかし、そこに「東大卒」はいない。
朝日新聞の編集部門には、「20、30年前は、多いと配属された記者の3分の1が東大生だったこともある」と元幹部は明かす。
昨年の採用試験が進んでいる頃、朝日新聞の幹部は、面接に東大生が一人もいないことがわかり、愕然としたそうだ。人気の凋落ぶりに、「ここまで…」と唇を噛んだとか。
「新御三家」はDeNAとグリー、サイバーエージェント
東大卒の新入社員が減っているのは、なにも朝日新聞だけではないかもしれない。週刊東洋経済(4月5日号)は、「激変、東大生の就活!新御三家はこの3社! 商社、金融を押しのける 人気のメガベンチャー」の特集で、東大生がここ数年で業績を拡大してきた、伸び盛りのネット系のベンチャー企業に目を向けるようになってきたと、指摘している。
いまや、ディー・エヌ・エー(DeNA)とグリー、サイバーエージェントを、「新御三家」と呼ぶらしい。
東大卒の就職状況をまとめた東京大学新聞によると、DeNAは2013年春(12年度卒)に16人の大学院卒を採用。就職ランキング(院卒)で、前年の20位以下から一気にベスト10入り、5位に順位を上げた。
就活に詳しい、大学ジャーナリストの石渡嶺司氏は、「東大生に限らず、最近の就活は『安定』と『反ブラック企業』がキーワードと言えます。民間企業で金融機関や大手商社が人気なのもそのためです」と話す。
たしかに、13年春の東大生の就職ランキング(学部卒)をみると、1位が2年連続で三菱東京UFJ銀行(29人)。2位が三菱商事(22人)、3位みずほフィナンシャルグループ(18人)。以下、三井住友銀行(16人)、住友商事(13人)、三井物産(13人)と、「お堅い」企業が並んでいる。
優秀な人材、他社にとられた?
インターネットの普及などで、出版や新聞・テレビ、広告は厳しい経営環境にさらされている。マスコミ業界について、前出の石渡嶺司氏は「全体的には採用人数を大きく減らしているのは事実ですし、そのために門戸が狭くなり、以前に比べれば人気が落ちていることはあります」と話す。
ただ、「それでもマスコミは人気がないわけではない」という。「斜陽産業」などと言われても、あすにもどうにかなるようなことはない。職業を聞かれて、「新聞社です」「新聞記者です」といえば世間体も悪くないし、給料も高い。「新聞社なら、文句を言う親はいません」。
「東大生のエントリーが減っているのかもしれませんが、(朝日新聞で)ゼロというのは考えられません。おそらく眼鏡に適わなかったのか、(志望者は)複数のマスコミを受けているはずですから、他社との競争に敗れたのではないでしょうか」と、石渡氏は推測する。
それにしても就職戦線での朝日新聞の「凋落」は隠せないようだ。