朝刊に上場企業に関する特ダネが掲載された直後に発表される「当社が発表したものではありません」といった紋切り型のコメントを一掃しようと、東京証券取引所が改善に乗り出した。
重要情報が報じられた際、企業の情報開示が不十分だった場合は東証が投資家に注意喚起する制度が2014年5月にも導入される予定だ。企業側は、「注意喚起」の発動を避けるため、これまでよりも踏み込んだコメントを出すことになりそうだ。
否定コメントから「本気度」読み取るのは難しい
「当社が発表したものではございません」
「現時点で決定した事実はございません」
これは、NTTドコモが定額制通話料金を導入することを、朝日新聞が2014年4月9日朝刊で報じた直後にドコモが発表したコメントだ。ところが翌10日には新料金制度が発表された。
ドコモに限らず、企業ニュースでは、こうした「特ダネ」が報道された後、企業側が一見それを否定するかのようなコメントを出しておきながら、そう時間を置かずに報道内容とほとんど変わらない内容を発表することが常態化している。そのため、マスコミや市場関係者の間では、このような紋切り型の否定コメントについて「特ダネの内容は大筋で正しい。後は発表を待つだけ」といった理解をする向きも多い。
こういった慣習があるため、企業が「どの程度真剣に否定しているか」を判断するのは難しい。例えば「そのような事実はありません」といった書きぶりの場合は「ボーダーライン」で、「事実無根」といった表現にまで踏み込むと「誤報」の可能性が高いと受け止められることが多い。
こういった企業の発表は、ひとつには投資家の適切な判断を助けるために行われているはずだが、「本気度」を推測しなければならないようでは本末転倒だ。こういった声は以前から多く、12年12月の発表された金融庁の「インサイダー取引規制に関するワーキング・グループ」報告書では、
「上場会社に係る重要事実についてスクープ報道がなされた場合、当該上場会社において、当該報道に関する事実についてより踏み込んだ情報開示が行われるよう検討することが求められる」
という記述が盛り込まれたほどだ。
シャープ発表「本日開催の取締役会にて付議する予定」が市場では高評価
これを受け、東証も対策に本腰を入れ始めた。4月4日には、企業の合併や増資など重要情報が報じられた際、企業側の情報開示が不十分な場合に投資家に注意を促したり、企業に説明を求めたりする制度を導入することを発表。具体的には、1997年に導入されたものの、適用対象が粉飾決算などに限られていた「開示注意銘柄制度」を幅広く適用できるようにする。
東証では、新制度について5月4日までパブリックコメントを受け付けており、5月中には導入に踏み切りたい考えだ。
ひとつのモデルケースとして受け止められているのが、13年9月18日のシャープの発表だ。この日の日経朝刊では、同社の業績や資本増強策について報じている。これに対して、シャープの発表では「当社が発表したものではありません」という説明に続いて、
「資本増強策については、公募増資や資本提携に係る交渉など様々な検討を行っております。業績予想の修正及び資本増強策の内容については、本日開催の取締役会にて付議する予定であり、決定しましたら公表いたします」
とある。上場企業としては公表できる事柄が限られている中、報じられたことのうち(1)現時点で何が明らかにできるのか(2)新しい事実はいつ分かりそうか、を明らかにしようと努力しているという点で、市場関係者の間では高く評価されている。
新制度導入後は、こういった踏み込んだ内容のものが増えることになりそうだ。