「あなたは、私のキャリアの中で最悪の上司でした」
デザイナーのジョーダン・プライス氏は、「アップルで仕事をしたくて仕方がなかったけど、今はそうでもない」と題したブログで、アップルを退職した経緯を明かした。米ハフィントンポストも2014年2月12日付で掲載している。
「採用面接の話がきたときは信じられなかった」と振り返るプライス氏。ところが、勤務開始早々違和感に襲われた。まず社内サーバーにログインするために大量のアカウントやパスワードの作成に迫られ、1か月も費やした。業務でも、会議の連続で生産性が上がらない。さらに直属の上司が部下に威圧的にふるまうタイプで、プライス氏にも契約更新をちらつかせながらプレッシャーをかけた。レベルの高いデザイナーと共に仕事をするのはやりがいがあったが、上司の嫌味や態度に次第に耐え切れなくなっていった。
ある朝、ふと「アップルに入る前の生活に戻りたい」と感じた。会議を終えると上司がいつものように嫌味を言ってきた。無視したものの、腹が立って仕事に集中できない。昼食後、iPadに保存されていたデータを消去し、ファイルをサーバーに戻し、備品を机に置いて会社を後にした。辞める決心をしたのだ。上司には退職の挨拶として、こんなメッセージを残した。
「あなたは、私のキャリアの中で最悪の上司でした。これ以上、あなたの下では働けません」
プライス氏の場合、退職の直接の原因は「イヤな上司」の存在が大きいようだ。だが同時に、企業体質として「会議続きで仕事がはかどらない」という内幕が明かされたのは興味深い。
2009年までアップルに勤務し、「僕がアップルで学んだこと」(アスキー新書)などの著書がある松井博氏は、ジョブズ氏が亡くなった2日後の2011年10月7日にブログでアップルの企業文化について書いていた。強調したのが「社内政治の苛烈さ」だ。注目される場で「使えないヤツ」のレッテルを張られないように、問題が起きたら「隙あらばこの問題を他部署の責任に仕立てたり、『問題を早急に解決したヒーロー』になる必要があります」というからすさまじい。もっとも、常日頃から文句をつけられないほどの成果をコンスタントに上げようと必死になるというプラスの面もあるという。
また、部下の育成はしない。「使えないヤツは早急に切り、賢いヤツと入れ替える」というわけだ。
こうした「社風」が根強くあるのか、それとも一部の「不満分子」の極端な声なのかはわからない。しかし「iPhone」「iPad」をはじめ時代をリードする製品の開発し続けるトップ企業には、常人には計り知れないようなプレッシャーがあり、よほどタフでないと生き抜けないであろうことは想像に難くない。