日本とオーストラリアの経済連携協定(EPA)交渉が、2014年4月初旬に予定されている日豪首脳会談での「実質合意」に向け、最終調整に入っている。
日豪両国は環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉や対米戦略への思惑も絡んで急接近しており、EPA妥結への期待が高まる。ただ、具体的主張ではなお溝も深く、ギリギリの交渉が続く。
豪州側は現行の38.5%から約20%への引き下げ求める
豪州のロブ貿易・投資相が3月末来日し、林芳正農相ら4閣僚とEPAの詰めの協議を行った。最大の焦点は豪州産牛肉の関税引き下げで、ロブ、林両氏は落としどころを探って協議。しかし数字的な隔たりが大きく、引き続き事務レベル折衝を重ね、4月の合意を目指すこととなった。
通商関係者によると、牛肉関税については、豪州側が現行の38.5%から約20%に半減するよう求めている。これに対し、日本側は外食・加工用として主に使われる「冷凍牛肉」は20%台でもやむを得ないとするものの、主に家庭向け用となる「冷蔵牛肉」には国産牛と競合するため、30%台を維持したいと主張、妥協できなかった。
ただ、日本側が豪州側に求めている自動車関税については、豪州側は柔軟な姿勢を示しており、牛肉関税でさえ折り合えれば、日豪EPAの決着は不可能ではないとの見方が強まっている。
日本は米国をゆさぶる戦術に使おうとしている
日豪EPA交渉の進展は、難航するTPP交渉と微妙に関連している。TPP交渉は昨年12月、今年2月と「妥結」を目指しながら、断念せざるを得なかった。最大の問題は日米関税交渉の行き詰まりだ。日本が国内農業を守るため、コメや牛・豚肉など農産品の「重要5項目」の関税維持を主張するのに対し、米国はTPPの大原則である全廃を要求。経済規模が大きい日米のこう着でTPP交渉全体が停滞してしまっている。
そんな中、日本が米国を動かす戦術に使おうとしているのが日豪EPAだ。豪州産牛肉と米国産牛肉は現在、日本市場でし烈なシェア争いを展開している。米国産牛肉は、牛海綿状脳症(BSE)の発生で一時、日本が禁輸措置を取り、シェアのほとんどを豪州産が奪った。しかし徐々に禁輸措置が緩和されると米国産は勢いを回復、豪州産を激しく追い上げている。
全中は「譲歩」に抵抗
もし日豪EPAが妥結し、豪州産牛肉の関税が引き下げられれば、豪州産は米国産より優位に立つ。しかも、TPP交渉で米国が関税全廃を求めているのに対し、豪州は全廃まで求めず、引き下げ要求にとどめている。日豪EPA交渉を進め、米国の焦りを誘い、譲歩させようとの狙いが日本側にはあるのだ。
一方、豪州は日豪EPA妥結で、牛肉で最大のライバルである米国より優位に立ち、輸出を拡大したい。いまや日豪EPAは、アボット豪首相が「絶対的な優先課題」と語るほどなのだ。
かくて、日豪両国の思惑は一致している。ただ、最終的に妥結できるかはまだ見通せない。全国農業協同組合中央会の万歳章会長が林農相に、日豪EPA交渉の関税協議で譲歩しないよう改めて求めるなど、農産品関税の扱いには依然、関税引き下げへの抵抗感が根強い。「結局、最終的には安倍晋三首相が決断するしかない」(通商関係者)との声も高まっており、首脳会談に向けて、首相の判断に注目が集まっている。