太平洋に面した大槌町は、漁業の町というイメージがあります。しかし、地形はナスの形に似て東西に延び、西端は北上山系の山懐に分け入っています。西方に広がるこの地域は農林業が主産業で、金沢地区も山の恵みで暮らしてきました。
その金沢地区で、3月9日、「金沢地域を考える会」が開かれました。町内各地にある町の復興まちづくりを考える会の一つで、5回目になる締めくくりの会合でした。会合では、地元の食材で作った料理の発表会が催されました。
発表会に並んだ料理は、マツタケご飯のおにぎり、シソ巻お寿司、クマ汁、すすり団子(お汁粉)、トウフ田楽、ヨモギ餅、五目豆、八杯汁、ワラビの煮つけ、フキの煮物、紅白なます、ワサビふすぺ……。いずれも市販されていない郷土色豊かな料理の数々です。
例えば、クマ汁は、金沢地区に伝わるクマ撃ちのマタギ文化を反映した料理で、クマの肉に、大根、ニンジン、ゴボウ、ネギ、みそなどが材料です。また、八杯汁は、おいしくて八杯もお代わりをするところから名が付いたとされ、豆腐、シイタケ、片栗粉、しょうゆなどが材料です。
発表会に先立ち、「金沢地域を考える会」会長の金澤平也さんが「地元で収穫した材料で作った料理ばかりです。味わって食べて下さい」とあいさつしました。発表会はバイキング方式で行われ、地域の内外からの参加者は、古くから伝わる素朴な味に舌鼓を打ち、大槌町の食文化の奥深さに触れました。
食後、それぞれ次のような感想が寄せられました。「大槌町は漁業の町なのに、山の幸の豊かさに驚いた」「郷土料理を町内外に発信すべきだ」「地元の料理なのに30年ぶりに食べたものもあり、おいしかった」
大槌町は1955(昭和30)年、旧大槌町と旧金沢村が合併してできました。金沢地区は、旧金沢村の区域で、震災時に、町の後方支援拠点の一つになりました。過疎、高齢化が進み、「金沢地域を考える会」は、昨年10月から地域活性化の方策を探ってきました。郷土料理の発表会もその一環で、参加者は、食文化が地域の資源の一つであることを確認し合いました。
(大槌町総合政策課・但木汎)
連載【岩手・大槌町から】
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