トヨタ自動車は2009~2010年に米国で起きた大量リコール(回収・無償修理)問題をめぐり、米司法省に12億ドル(約1200億円)を支払うことで和解した。これにより4年にわたる刑事捜査は終結することになった。
自動車メーカーに科される制裁金としては過去最高額となり、トヨタは2014年3月期決算に計上する。
「米消費者と当局をミスリードした」ことを認める
大量リコール問題は、トヨタ車に「意図しない急加速」が起こり、延べ1000万台以上のリコールや自主改修を実施したというもの。急加速の原因は、アクセルペダルがフロアマットに引っかかったり、アクセルペダルが戻りにくくなったりする不具合があったため。当初、電子制御装置の欠陥の可能性も指摘されたが、2011年2月に米運輸省と高速道路交通安全局が「電子制御装置に欠陥なし」との結論を出し、この点については「シロ」判定が確定している。
ただ、問題は、この手の話に共通するように、不具合それ自体より、その後の対応だった。顧客から不具合に関する苦情を寄せられながら、適切で十分な情報開示をしなかったとして、米国でのトヨタ不信が広がり、トヨタ車の販売にも大打撃となったのだ。
この情報開示に対するトヨタの姿勢については、米当局や消費者を欺いていたとみなされ、2010年2月に米議会の公聴会に豊田章男社長が招致される異例の事態に発展。司法省も意図的に情報を隠蔽していた疑いがあるとみて捜査に乗り出していた。
今回の和解で、トヨタは「米消費者と当局をミスリードした」ことを認め、日本の執行猶予と同じように「訴追延期合意(DPA)」とされ、3年後に完全に訴追を免除されることになる。ただ、司法省のホルダー長官は「トヨタは情報を意図的に隠していた」と指摘。他の自動車メーカーに対して「トヨタと同じ過ちを繰り返してはならない」と語った。
今後巨額の和解金を求められる可能性がある
トヨタは和解について「今回の合意は難しい決断だったが、未来に踏み出すための重要な一歩と考えている」とのコメントを発表し、苦渋の判断だったことを強調している。この問題以降、トヨタは苦情処理体制の見直しや先進安全技術研究センターの設置などで信頼回復に向けた措置を実施した。顧客対応の改善など地道な取り組みが奏功し、2013年の米国での新車販売台数は前年比7.4%増となり、リコール問題で2011年に12.9%にまで落ち込んだ米国シェアも2013年は14.3%にまで回復した。米国の景気回復を背景に販売が好調な中、刑事訴追のリスクを避け、販売競争に専念する方が得策と判断し、和解に踏み切ったとみられる。
だが、司法省とは和解しても、民事上のリスクはなお残っている。急加速による死傷事故をめぐって起こされた数百の訴訟は主に3件の集団訴訟に絞られている。このうち2件はすでに和解が成立し、計約11億3000万ドルの和解金を支払った。残る訴訟でも原告と和解協議を進めており、今後巨額の和解金を求められる可能性がある。
このトヨタの大規模リコール問題が他の自動車メーカーに与えた影響は小さくない。近年の自動車業界では部品の共通化が進み、100万台を超える「ミリオン・リコール」も珍しくなく、影響は世界中に波及する。国内メーカーはトヨタの一件で「情報開示と迅速な対応の重要性を改めて痛感」(大手幹部)させられ、早期のリコール対応に乗り出すなど危機対応能力を高めている。