信託銀行の「遺言代用信託」が好評で、契約件数を伸ばしている。
生きているうちに自身の葬儀や墓の準備をして、遺された家族が財産の相続を円滑に進める「終活」の一環として利用されている。
発売2年、「ずっと安心」60代中心にヒット
銀行の預金口座は、亡くなった人の名義の場合、その預金口座が「凍結」されて金をおろせなくなるという話をよく聞くが、この遺言代用信託だと「預金より早く、簡単に」おろせるという。
たとえば夫が突然亡くなり、葬儀費用を夫名義の預金から支払う場合、妻は預金をおろせない。夫の実印もキャッシュカードも通帳もすべてそろっていたとしても、おそらく銀行は首をタテには振らないはずだ。
一方、葬儀費用は100万~200万円が相場。決して安くはない。そのお金を手元に現金で置いておくのも不用心だし、さて困った…
そんな万一のときの「備え」として、信託銀行が用意しているのが「遺言代用信託」だ。信託協会によると、遺言代用信託の新規受託(契約)件数は、2010年度が44件、11年度は64件だったが、12年度に急増して1万8742件、13年度には上半期だけで2万1359件に達した。
同協会は、「一般に相続財産は預金に限らず、相続額と相続人が確定するまですべて凍結されてしまいます。遺言代用信託を利用すれば、葬儀費用などの資金をあらかじめ指定した受取人が受け取ることができます」と説明。最近の「終活」への関心の高まりとともに、急速に契約件数を伸ばしている。
「遺言代用信託」でトップシェアを誇る三菱UFJ信託銀行は、2012年3月に「相続型信託 ずっと安心」を発売。累計契約数は14年2月末に5万件を超え、信託残高も2000億円を突破している。同社は「発売して2年になりますが、当社のヒット商品です」と胸を張る。
三菱UFJ信託は、この商品は「預金ではありません」と強調。財産なので相続税の対象にはなるが、金銭信託の機能を利用して、預けた(信託した)資金を運用・管理する。
たとえば、夫(委託者)が700万円を預けた(信託した)場合、夫が死亡して相続が発生ときに200万円を一時金として妻(受益者)が受け取り、残りの500万円を妻や息子(受益者)が毎月5万円ずつ受け取ることができる。
つまり、あらかじめ財産の一部を受け取る預金口座を家族名義に指定しておけるので、死亡後すぐにもお金を引き出せるというわけ。預け入れは200万円から。予定配当率(金利)は0.05%と定期預金ほどだが、預金保険制度の対象商品で元本保証。管理手数料も無料だ。
葬儀費用の引き出しは死亡届の提出前に
三菱UFJ信託銀行の「ずっと安心信託」は、委託者自身が年金として受け取れる「自分用(定時定額)」と、家族が葬儀費用として使える「家族用(一時金)」、遺された家族が年金のように受け取れる「家族用(定時定額)」の3つの受け取り方法を自由に組み合わせることができる。
契約者の多くは60代。同社は、「ご自身が親の葬儀のときに苦労したので、家族に迷惑をかけたくないと言って契約される方が多いようです」と話している。
もちろん、銀行の預金口座も死亡後すぐに凍結してしまうわけではない。死亡時は葬儀や埋葬など多くの手続きが必要になる。その一つとして銀行にも死亡届を提出することになるが、それをもって口座はほどなく凍結される。むろん役所へ死亡届を出しても自動的に銀行に知らせることもないし、たとえ銀行が聞いたとしても教えることはない。
つまり、銀行に死亡届を提出する前であれば、預金は引き出せることになる。半面、一たん口座が凍結されると、基本的には相続額と相続人が確定しなければ解除できないので、かなり時間がかかる。