東日本大震災後、被災者の救援活動に従事した元米兵ら79人が、原発事故を起こした東京電力に対して訴訟を提起した。過去にも同様の訴えがあるが、今回は原告団が10億ドル(約1020億円)の損害賠償を求めている。
東電にとっては、長引く事故処理や廃炉作業、被災者への補償と合わせて重い課題を突き付けられた。
最大7万人の米市民が原告に加われる
訴訟内容については、米ハフィントンポストが2014年2月12日に詳しく報じている。原告団は米海軍の原子力空母「ロナルド・レーガン」の乗組員で、「トモダチ作戦」と呼ばれる震災の被災地支援活動に参加した人たちが中心だ。米カリフォルニア州サンディエゴの連邦裁判所に2月6日、東電を相手取って訴訟を起こした。
「ロナルド・レーガン」は救援活動のため、東京電力福島第1原発沖およそ1.6キロの地点まで接近したが、当時東電が事故の状況を適切に開示せず、乗組員が被ばくを避けられなかったという。原告は東電に対して、10億ドルの損害賠償を請求。これは、診察や治療にかかった医療費ほか、諸経費すべての負担を含む。
今回提起された訴訟は「クラスアクション」と呼ばれるものだ。集団訴訟の一種で、利害が共通する人であれば本人の同意を得なくても原告に加えることができる。賠償金を手にした場合は、それぞれに分配する。ハフィントンポストによると、「最大7万人の米国市民が潜在的に(原発事故による)放射能の影響を受けており、今後このクラスアクションに加わることができる」だという。
クラスアクションの可能性については、「AERA」2013年3月11日号が指摘していた。トモダチ作戦で、「ロナルド・レーガン」に搭乗していた米兵は約5500人、作戦全体には約2万4000人が参加したとされる。こうした人たちを原告団に巻き込んでクラスアクションを提起すれば、請求額は莫大になるというのだ。今回の訴訟で原告側の弁護士は、「エクソン・モービルなど米国の大企業を相手に多額の損害賠償金を勝ち得た経験がある」人物だという。
東京電力に取材したところ、「訴訟に関する詳細については、回答を差し控えます。いずれにしても米国の訴訟手続きにのっとり、適切に対処してまいります」とのコメントを寄せた。
一度は棄却された訴訟を「再提起」か
東電は過去にも、元米兵から訴訟を起こされている。2012年12月、トモダチ作戦に参加した8人と、当時は生まれていなかった米兵の子どもの、合計9人が原告となった。東電が事故の情報を正確に伝えなかったため、原発事故でまき散らされた放射性物質を浴びて健康被害や精神的苦痛を受けたとの主張だ。最終的に原告の人数は51人にまで増えた。
だが米連邦裁判所は2013年11月26日、この訴えを退けた。米紙「U-Tサンディエゴ」電子版2013年12月17日の報道によると、東電が福島第1原発から漏れ出した放射性物質の量について、「日本政府の了解を得たうえで偽った」と主張する点が争われたが、「日本政府が米政府に不正行為を働いたかどうかの判断は、連邦裁判所の権限から外れる」として棄却したのだという。ただし裁判官は原告側に対し、訴訟の再提起への道を残していた。
今回のクラスアクションは、同じ弁護士が担当し、原告の中に最初の訴訟と同じ「当時乗組員の胎児だった子ども」が含まれていることから、新たな訴訟ではなく再提起したもののようだ。「AERA」が指摘していたように、今後原告の人数が増えれば、裁判の行方によっては東電側がさらに巨額の賠償金を迫られるかもしれない。