金正恩第1書記の独特な髪形が、国民の忠誠心を試す材料にされている模様だ。米政府系ラジオの報道によると、国内の全男子大学生に対して正恩氏の髪型にするように指示が下ったというのだ。北朝鮮ではこれまでに「長髪禁止令」が出たことはあるが、特定の髪型にするように指示が出るのは異例だ。
だが、「髪型が独特で、顔の形によって似合わない人もいる」「中国の密輸商人みたいだ」といった不満が噴出している様子で、この指示が正恩氏への忠誠心向上につながるとは考えにくい。
「元帥様の髪型は非常に独特で」…
金正恩カットというのは、頭の両サイドを高く刈り上げたヘアスタイルで、北朝鮮では「若者ヘア」「野心ヘア」などと呼ばれて人気があるとされている。
今回の指示は、米政府系の自由アジア放送(RFA)が2014年3月25日、北朝鮮住民の証言として伝えた。RFAの記事は中国発で、北朝鮮北東部の咸鏡南道(ハムギョンナムド)住民が中国を訪問した際、RFAに対して明らかにしたという。
この住民によると、指示があったのは2週間ほど前。
「特定地域や一部学校に限った話ではない。平壌で始まり、今では全国的に行われているだろう」
と全国的に指示が出たとの見方を伝えている。ただ、国内での評判は、
「元帥様の髪型は非常に独特で、顔の形によって似合う人もいるが、そうでない人もいる」
として、「少なくない不満の声が出ている」という。
また、平壌の消息筋は、やはり中国訪問中にRFAに対して、
「00年代中盤までは、そんな髪型の若者は(密輸商人が多い)中国人のような髪型だとして『密輸頭』と呼ばれていた」
と明かした。かつては批判の対象となっていた髪型が奨励されている形で、困惑が広がっているようだ。
女性には李雪主氏の髪型を推奨
前出の咸鏡南道住民によると、女性向けの通達も出ているというが、比較的緩やかな内容だ。
「女子大生や若い女性は(正恩氏の妻の)李雪主(リ・ソルジュ)同志の髪型をまねることになっているが、推奨するレベルで強制ではない」
今回の通達以前にも、北朝鮮政府はたびたび国民の髪型に口出しをしてきた。香港のフェニックステレビが13年2月に伝えたところによると、理髪店には男性10種類、女性18種類の髪型の写真が飾られており、これらの髪型が推奨されている。男性の髪の長さは5センチを超えてはならず、月に2回は散髪に行くことが求められる。生え際が後退している人は、7センチまで伸ばすことが認められるという。女性については、未婚者はシンプルな髪形しか認められないが、既婚者は多少華やかにできるようだ。
05年には、朝鮮中央テレビで大々的に「長髪追放運動」を展開した。11年には朝鮮中央テレビの看板アナウンサー、李春姫(リ・チュンヒ)氏が、髪型を2週間で変えたとして「髪型について何らかの政策の変更があったのでは」という憶測を呼んだこともある。