大手居酒屋チェーン「和民」に勤務していた女性が過労から入社2か月で自殺し、遺族が親会社「ワタミ」と当時社長だった渡辺美樹参院議員を相手取り裁判を起こし、継続中だ。第2回口頭弁論が開かれた東京地裁で、トラブルがあった。
原告側や、裁判所を訪れた傍聴希望者から、開廷前から大勢のワタミの社員が押しかけて法廷入口をふさぎ、入廷と同時に一斉に中に入り傍聴席を「占拠」したとの報告がインターネット上に寄せられたのだ。
「傍聴席約50の大半をワタミ社員が占有」の報告
2014年3月27日の法廷には、第1回口頭弁論を欠席した渡辺議員が初めて顔を見せた。それが影響したのだろうか、開廷前から原告側と被告側で「もめごと」が起きていたとの報告が寄せられた。
原告を支援する東京東部労働組合はブログに、傍聴席を巡ってのてん末を書いている。13時30分の開廷前、法廷の入口付近には「ワタミの社員」が大勢いて「遺族側支援者らの入場を妨害」したという。ドアが開くと傍聴席を「一時占領」したため、抗議の声が次々と上がったそうだ。その後「裁判所の仲介で原告・被告双方の弁護士が呼びかけてワタミ側社員の多くは退席した」と説明している。
ツイッターにも、東京地裁へ傍聴に訪れたという人たちから騒ぎの模様が投稿された。労働問題を専門とするNPO法人「POSSE」の複数のスタッフは、現場の様子として「ワタミ裁判傍聴しようとしたら、ワタミが管理職を動員して傍聴席を占領」「傍聴席をワタミ職員が埋めるという異常事態。一般の傍聴者が座れない、入れない」と実況。小説家の水市恵氏も、「傍聴席約50の大半をワタミ社員が占有していて、マスコミの方や市民が入れず揉めました。社員の何割かが渋々退出して決着。私は結局入れませんでした」とツイートした。3月28日付の毎日新聞電子版は、「ワタミ関係者が傍聴席の最前列を埋めるように座ったため、遺族の支援者らが抗議」と報じている。
渡辺議員は3月28日付のフェイスブックでこの騒動に触れ「原告、被告双方傍聴希望が多数あり、双方弁護士がその場で協議し……原告側支援者が過半数の傍聴席で裁判が行われたのが『事実』です」と説明。さらに、こう訴えた。
「被告とされると、とかくすべてを否定されてしまいます。一方的な声にかき消され『事実』が正しく伝わらないことがあります。何卒『事実』を正しくご理解頂ければ幸いです」
傍聴席を巡るトラブルが起きたとする点は、暗に否定した格好だ。一方で、傍聴希望者に「ワタミ社員」がいたかどうかは一切書いていない。
社員が自主的に傍聴しに時間前に並んだにすぎない
この日の法廷では事前に傍聴券が交付されなかったため、当日になって席の「争奪戦」が起きたようだ。渡辺議員は少なくとも、裁判の傍聴希望者が多く、双方協議の上で傍聴席の割合を決めたことは認めている。問題は、騒動の発端が「ワタミの社員」によって引き起こされたかどうかだ。
ワタミに事実関係の確認を含めて取材した。原告側の主張やツイッターでの「目撃情報」に基づいて、実際にワタミの社員が開廷前から法廷入口をふさぎ、入廷するや傍聴席を占拠したのは本当か、また大勢の社員はワタミが会社として動員したのか、という点をたずねた。ワタミ広報からは、
「法廷内で、弊社の従業員が傍聴席を『占拠』したとの指摘がありますが弊社の関係各部署のスタッフが自主的に傍聴しに時間前に並んだにすぎません」
との回答が届いた。会社側による指示はなかったとの主張で、「傍聴席占拠」のイザコザについては触れなかった。続けて、「原告、被告双方傍聴希望が多数あり、双方弁護士がその場で協議し、最終的には原告側(2):被告側(1)と言う割合を受け入れ、原告側支援者が過半数の傍聴席で裁判が行われたのが事実です」と説明した。この部分は、渡辺議員がフェイスブックに書いた内容と一致する。
渡辺議員は意見陳述で、自殺した女性と遺族に対して「命の道義的責任について重く受け止める」と謝罪した。かねてから「命がけの反省をしなければならない」「一生の悔いであり、一生かけて償っていきたい」とも語っていた。しかし、法的責任については原告側と「見解相違」があるという。そのうえで、原告側の申し入れをただちにすべて受け入れることはできない、司法の判断を仰ぐと話し、裁判で争う姿勢を明確にした。