安倍晋三首相、オバマ米大統領、韓国の朴槿恵大統領は2014年3月25日、オランダのハーグで日米韓首脳会談を行った。会談では、日韓の懸案である歴史認識問題は話題にならず、北朝鮮問題をめぐって緊密に連携していくことを確認した。
会談後の三首脳による記者会見で、安倍首相が韓国語で挨拶したのに、朴大統領が無視したなどの「わかりやすい」話がでている。しかし、筆者のみるところでは、会談時にあわせるように北朝鮮が挑発的にミサイル発射するなど、この会談のもつ真の意味は意外と大きい。
会談時に北朝鮮がミサイル発射
というのは、オバマ大統領は、合同演習やミサイル防衛など軍事面での協力を議論したといっている。この発言の意味は、日米韓の「軍事情報保護に関する了解覚書(MOU)」を促したのだろう。
北朝鮮のミサイル発射は、米韓では事前に把握していたので、会談でも話題になった可能性がある。米国は、2016年に在韓米軍を撤退させるという計画がある。計画通りになるのか、韓国が慰留するのかはよくわからないが、米国としては、最低限として日韓が軍事情報の共有をする必要があると判断している。
ところが、日米間、米韓間では軍事情報協定があるが、日韓間では存在していない。日韓の秘密情報保護協定は、2012年6月に締結直前までいったが、当時の李明博政権が反日韓国世論を考慮して先送りし、朴政権になってからも進展していない。一方、日本では特定秘密保護法を成立させ、当時より環境整備を前進させている。
こうした状況に業を煮やした米国が、日韓の二国間をあきらめ、日米韓の三国で軍事情報の共有を図ろうとしているのだ。北朝鮮のミサイル発射は、会談にとって格好の議題となったはずだ。
どうなる米軍の韓国撤退問題
北朝鮮のミサイル発射は、安保理決議違反なので、国連も非難決議に向けて動くだろう。クリミア危機では、拒否権をもつ常任理事国のロシアが当事者のために行動できずに影が薄かったので、北朝鮮のミサイルでは動かざるを得ないだろう。ただ、ここでも、やはり常任理事国の中国の動向が気がかりだ。
中国は日本の歴史認識問題で韓国をせっかく取り込んだのに、日米韓首脳会談は、北朝鮮をダシにして韓国を米国の同盟国であることを再確認させた。
一体韓国はどこにむかっているのだろうか。朴大統領は、日米韓首脳会談の直前に、中国の習近平主席との首脳会談や海外プレスに向かって日本の歴史認識問題を批判していたので、日本に対して歴史認識問題の旗は降ろせない。というものの、日米韓のMOUは拒むことができない。こうした中で、2016年の在韓米軍撤退が迫ってくると、撤退を延期するように、米国に泣きつくのではないだろうか。そのときには、米国も自国だけではコスト負担が高くつくので、ひょっとしたら、日米韓のアジア版NATOを持ち出してくるかもしれない。
こうした国際政治のダイナミックスがすこし垣間見えた日米韓首脳会談だった。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「さらば財務省!」、「日本は財政危機ではない!」、「恐慌は日本の大チャンス」(いずれも講談社)など。