2週間以上にわたって消息を絶っていたマレーシア航空370便(MH370)が、インド洋南部に墜落していた可能性が高くなった。2014年3月25日時点で、乗員乗客239人の生存は絶望的だ。今後機体の捜索・回収作業が本格化するが、その後マレーシア航空に待っているのは遺族との補償交渉だ。
マレーシアや中国のメディアでは、すでに補償問題に関する報道が始まっている。久しぶりの大規模な航空機事故で、しかも最近では、かつてあった損害賠償額の上限が取り払われているので、かなりの高額の補償金をめぐる争いになる可能性が強い。
中華航空事故当時の条約の規定では1人あたり280万円が上限
MH370と近い数の犠牲者を出した1994年の中華航空機の事故では、賠償額をめぐって中華航空と遺族が折り合わず、最終的に訴訟が終結したのは提訴から13年が経った2008年だった。MH370では、乗客の多くが中国人で、中国側はマレーシア政府の説明が二転三転したことや情報開示の遅さに不信感を募らせている。事件に操縦士の関与が取りざたされていることもあって、交渉は困難をきわめることになりそうだ。
1994年の事故では、台北から名古屋空港(現・県営名古屋空港)に向かっていた中華航空140便(エアバスA300-600R型機)が、着陸時に自動操縦装置が着陸のやり直し(ゴーアラウンド)をしようとしたが、失速して墜落、炎上。乗員・乗客264人が死亡し、7人が負傷した。
当時の改正ワルソー条約(ヘーグ議定書)の規定では、乗客が死亡した場合でも損害賠償の限度額は1人あたり約280万円に限られていた。日本や欧米の航空会社の多くが独自に限度額を撤廃する措置を打ち出していたが、この時点では中華航空はそうではなかった。
この事故で中華航空側が提示した賠償額は日本人、台湾人ともに一律で1640万円。条約の規定は上回っていたものの、遺族は到底納得せず、95年から96年にかけて続々と日本で裁判が起こされた。特に95年11月に日本と台湾の遺族らでつくる「合同原告団」が約250億円の損害賠償を求めて起こした訴訟では、03年12月の1審名古屋地裁の判決で中華航空に約50億円の賠償を命じている。操縦士の不適切な操縦が認定され、比較的高い賠償額が示されている。