東芝の最先端技術が、韓国メーカーに流出した疑いが強まっている。警視庁は2014年3月13日、東芝と提携関係にある米半導体メーカー「サンディスク」の元技術者の男を、不正競争防止法違反(営業秘密侵害)容疑で逮捕した。技術流出は水面下で相次いでいるとみられており、企業側は「虎の子技術」を守ろうと対策強化に乗り出しているが、根絶は難しいのが実情だ。
流出した疑いがあるのは、「NAND型フラッシュメモリー」と呼ばれる半導体メモリーの研究データ。電源を切ってもデータが消えないのが特徴で、デジタルカメラやスマートフォンに欠かせない部品だ。1987年に東芝が開発。現在も同社の稼ぎ頭で、韓国サムスン電子と世界シェア首位を争っている。
転職先の韓国「SKハイニックス」に漏らした疑い
元技術者は、同社の半導体メモリーの開発拠点、四日市工場(三重県)に勤務していた。2008年ごろ、営業秘密に当たる研究データを不正にコピーし、転職先の韓国「ハイニックス半導体(現SKハイニックス)」に漏らした疑いが持たれている。元技術者は「間違いありません」と容疑を認めているという。
技術流出が明るみに出るのは、今回が初めてではない。2012年3月、工作機械メーカー、ヤマザキマザック(愛知県)の中国人社員が、設計図面を不正取得したとして、愛知県警に逮捕された。同年6月には川崎市のプレス機械メーカー、ヨシツカ精機(川崎市)の元社員が、設計図面データを中国企業に不正に流出させたとして、神奈川県警に逮捕されている。刑事事件ではないが、2012年4月には、新日鉄住金(旧新日鉄)が、高性能鋼板の製造技術を元社員から不正取得したとして、韓国鉄鋼大手、ポスコを相手に約1000億円の損害賠償を求め、東京地裁に提訴した。
請求金額は1000億円レベル?
今回、東芝と米サンディスクは、韓国SKハイニックスに対し、損害賠償などを求める訴えを起こした。東芝は「調査過程で看過できない不正の事実が発覚した。事業競争力の源泉である技術の先進性を確保していくため、最善の情報漏洩防止体制の構築を図るとともに、不正競争行為に対して断固たる措置を講じる」とコメントした。請求金額は明らかにしていないが、1000億円レベルとされる。
経済産業省が2012年に実施した調査では、回答した約3000社のうち、過去5年間で営業秘密の漏洩が「明らかにあった」(6.6%)「おそらくあった」(6.9%)が計13.5%に上った。流出元は中途退職者(正社員)が50.3%と断トツで、現職従業員などのミス(26.9%)、金銭目的などの現職従業員(10.9%)、取引先・共同研究先経由(9.3%)、定年退職者(6.2%)――と続く。
リーマン・ショック以降、技術流出に拍車かかる
技術流出は、2008年秋のリーマン・ショック以降、拍車がかかったとみられる。業績不振に悩む国内製造業が、大規模な人員削減を進めたためだ。韓国メーカーをはじめとする海外企業は、高額報酬で技術者の引き抜きを活発化させた。
企業側も、機密情報にアクセスできる人を制限したり、退職時に、情報漏れを禁じる守秘義務契約を結んだりと、対策を進めている。しかし「悪意を持った流出を完全には防ぎきれない」(大手電機)というのが実情。企業からは、諸外国に比べて甘い不正競争防止法の罰則を強化すべきだとの声も出ているが、不正を防ぐ決め手にはなりそうもなく、日本メーカーの苦悩は続きそうだ。