「異常なし」のはずの農作物や水産物が捨てられる光景が
しかし高橋さんには別の大きな課題がのしかかっていた。「南相馬発の料理を受け入れてもらえるだろうか」との不安。原発事故が暗い影を落とした。地元の食材は、検査をして安全だと証明しても、買ってもらえない。「異常なし」のはずの農作物や水産物が捨てられる光景を「日常的に見てきました」。周囲の生産者やたこ焼き店で働く若い女性従業員も自信を失い、負い目すら感じていた。それでも「F-1」出場を決めたのは、「とにかく『地元産の食品は大丈夫だ、食べられる』と訴えたかったからだ。受け入れられるだろうかと不安だったが、とにかく発信しようとの気持ちでした」と振り返る。
出場を支援した鹿島商工会の鈴木秀明さんも、思いは同じだった。「南相馬は大丈夫だとアピールしたかった。原発事故のイメージがつきまといますが、今では地元の人は安全に暮らしており、決して危ない場所じゃないと伝えたかったですね」。
「りゅうぐう蛸焼」に入れるツブ貝は、当時相馬沖の試験操業で水揚げされたものを使った。もちろん厳しい放射能検査をクリアし、許可を得て市場に出荷されているツブ貝だ。地元産にこだわったが、それは食の安全を守ってこそで、品質管理を徹底した。自信が持てないまま出場した第3回大会だったが、ふたを開ければ準優勝だった。
「おいしいと食べてもらえたことが何よりうれしかった」