2020年東京五輪のメーンスタジアムとなる新国立競技場の建設費をめぐり、政府と東京都の綱引きが続いている。政府から総工費1692億円のうち500億円の負担を求められている都が、態度を留保したままなのだ。
そもそも、規模、機能、さらに五輪後の活用方法ついて各方面の議論を呼んで、とても広く社会的コンセンサスができているとはいえないだけに、まだ決着しそうにない。
各方面からクレーム
五輪を所管する下村博文・文部科学相は14年2月下旬、都庁に当選間もない舛添要一都知事を訪ね、「国立競技場の建て直しに協力を」と要請した。文科相は昨年12月、都に500億円の負担を求める考えを示しており、この数字を念頭に置いた要請とされる。しかし、知事は会談後、「詳しく話を聞かないと分からない」と語るにとどめた。
2020年東京五輪の主会場は、1964年の前回東京五輪の主会場だった今の国立競技場(新宿区)を建て替えることになっている。現在の延べ約5万1500平方メートル・約5万4000人収容から、延べ約22万5000平方メートル・8万人収容に拡充される。
この構想には、各方面からクレームがついた。建築家や市民グループが費用負担の大きさや景観への影響を懸念し、都や国に見直しを要請。当初1300億円だった建築費が3000億円に膨らみ、競技場を管理する文科省の外郭団体、日本スポーツ振興センター(JSC)は見直しを余儀なくされ、昨年秋に1852億円に圧縮、さらに1692億円まで抑えることで理解を得ようと躍起になっている。
費用の負担区分を巡っては昨年11月、当時の猪瀬直樹都知事と下村文科相が「競技場本体は国が負担し、周辺整備は都が一部負担」と確認したが、徳洲会マネー問題で猪瀬氏が引責辞職。その最中に下村文科相が500億円という数字を示し、都側が反発する状態が続いてきた。
元々、都は2016年五輪招致運動の際、メーンスタジアム新築を晴海地区に計画。建設費約1000億円と試算し、都が半分の500億円を負担、残りは国から補助を受ける方針だったという。政府が今回、「500億円」を打ち出したのは、これが根拠といわれる。一方、今回の建設費1692億円のうち本体工事費が1388億円、解体費67億円、周辺の公園や歩道などの整備費237億円。都にすれば「下村・猪瀬合意の『周辺整備の一部を都が負担』にしては、500億円は多すぎる」(都関係者)というわけだ。
年間12日のコンサートが高くつく
そもそも7万人収容の日産スタジアム(横浜市)でも600億円程度でできており、8万人という収容人員に比べて建設費がかさむことに、市民団体や建築家などが反発しているが、そこには、五輪後の収支もからむ。
JSCは五輪後の利用計画について、年間収入45億5500万円、支出41億4800万円と弾く。収入の内訳は、会員シート・迎賓9億600万円、興行事業(スポーツ・コンサートなど48日)9億6200万円、コンベンション事業4億7400万円、フィットネス事業1億3500万円、物販・飲食事業1億5400万円、その他8000万円。特に焦点になるのが興行収入のコンサートで、芝を傷めないよう日数を制限するものの、年間12日は可能とする。コンサートは雨でも開催できる必要があるとして計画に盛り込まれたのが開閉式屋根だ。その整備に、初期費用だけで139億円必要というように、「無駄が多い」(市民団体)という批判が絶えず、自民党無駄撲滅プロジェクトチームなども問題点を指摘しており、現計画のままでは都もおいそれと国のいい値を飲めないのだ。
大会開催の基本計画は来年2月に国際オリンピック委員会(IOC)に提出しなければならず、そこに新国立競技場を含む施設の詳細な整備計画を盛り込む必要がある。2019年秋に日本で開催されるラグビーのワールドカップに間に合わせるため、2015年10月には着工することになっており、時間的な猶予は多くない。
ただ、都知事交代で風向きの変化を指摘する声もある。猪瀬知事時代の周辺整備負担の文科相との合意に、昨年12月、都議会自民党が「知事の独断」と反発する場面があったが、自民党が全面的にバックアップして舛添知事が誕生、「猪瀬氏がやることは全て悪という都議会の空気も変わり、舛添知事も国と慎重にすり合わせするはずで、500億円満額かは別にして、相応の負担で妥協するのでは」(都議会野党関係者)との観測も出ている。