ひきこもりは、今や若者の問題ではない。山形県や島根県の調査で、40代以上でひきこもっている割合が半数に達したことがわかった。
職場のトラブルや人間関係に悩んで退職し、派遣社員を続けても将来の見通しが立たない。正社員への道が閉ざされ、絶望して殻に閉じこもってしまう中高年は、ますます社会とのつながりが薄くなってしまう。
疾病、本人の性格、失業が引き金に
山形県が2013年9月24日に公表した「困難を有する若者等に関するアンケート調査報告について」は、ひきこもりに関する県内の実情をアンケート調査によって明らかにしたものだ。ここでは、仕事や学校に行かず、家族以外の人との交流をほとんどせずに6か月以上続けて自宅にひきこもっている、あるいは買い物での外出程度はする状態を「ひきこもり」としている。
この条件に該当するのは、1607人に達した。年代別に最も該当者が多いのは30代、次に40代となる。いわゆる「働き盛り」世代がひきこもりの中心なのだ。さらに40代以上の年代の割合の合計は44%と、半数に迫る。
期間も長い。10年以上と答えたのは33%に上り、5年以上10年未満と合わせると半数を超えた。高齢化と長期化が、山形県のひきこもりの実態を示すキーワードだ。
NHK山形放送局が、この結果を取り上げて特集していた。3年前からひきこもっている41歳の男性は大卒後、メーカーや飲食業で正社員として勤務したが、職場のいじめ体質に耐え切れずに退職。30代では当時増えていた派遣社員として職を転々したという。だが、こんどは派遣社員に対する「差別」に痛めつけられて、ついには辞めてしまった。現在は精神的なダメージから立ち直れず、仕事への希望が持てない。一方で親に頼っている自分をふがいなく感じ、他人の目が非常に気になると話す。
島根県でも、同様の調査結果が出た。2014年3月の「ひきこもり等に関する実態調査報告書」によると、アンケートで把握できた該当者は1040人で、最も多い世代は40歳代だったという。さらに、40歳以上の比率は53%と「高齢化」は山形よりも顕著になっていた。県の健康福祉総務課に聞くと、「ある程度の割合は予想していたが、39歳以下の世代より多いというのは予想しなかった」と驚いた様子だ。調査を担当した民生委員が該当者本人にたずねた「ひきこもりに至った経緯」は、「分からない」を除いて最も多かったのが「疾病、本人の性格」で、「失業」がこれに次ぐという。
若いうちにひきこもって年齢を重ね、40代になった人も?
調査では、10年以上のひきこもりが34%に達する点にも触れている。島根県健康福祉総務課の担当者は取材に対し、「年代別にみると、最も多いのはまたも40代です。質問項目が『10年以上』となっているため、実際は20年、それ以上に渡ってひきこもっているケースがあるかもしれません」と話す。若い年齢のときからひきこもり、長期化するうちに年を重ねて40代となっている人が増えている可能性もあるだろう。
山形や島根のように、県民対象の大がかりなひきこもり調査はまだ珍しい。だが自治体によっては、徐々にひきこもりの高齢化を指摘するところも出てきた。例えば宮城県精神保健福祉センターは、ひきこもり支援の実態調査を2013年5月に実施している。その報告書の中で、福祉事務所などが市民から受けるひきこもり相談について「当事者の年齢は10代・20代が多いが、40代以上の相談もみられるようになった」との記述があった。
この問題は、既に2年前の2012年7月11日、NHK「おはよう日本」で特集されている。番組では、秋田県藤里町の当時50歳の男性を取り上げていた。自衛隊員や大工として働いていたが、次第に人間関係に悩んでひきこもるようになったという。支えてくれた両親が体調を崩し、面倒を見てもらえなくなった。ところが男性は、自分で食材の買い物に出たことすらない。収入を得るどころか、食べていくこと自体困難な状態だったようだ。
番組では、町の社会福祉協議会がこの男性を支援する様子を紹介していた。だがこうした中高年のひきこもりは、年月とともにますます増加し、深刻化していくと予想される。解決は簡単ではない。