東京電力福島第1原発の汚染水処理問題で、また重大な問題が発覚した。浄化装置「ALPS」(アルプス)の不調で放射性物質をほとんど除去できなかった水が、処理済みの水が入ったタンクに流れ込んでいたというのだ。最大で1万5000トン近くが再び汚染されてしまった可能性があり、その分の処理をやり直さなければならなくなる。
福島第1原発では、2014年2月には110トンもの高濃度汚染水をタンクからあふれさせるというトラブルを起こしたばかりだ。いずれも原因ははっきりしていない。東電は敷地内のタンクにある汚染水約35万トンの処理を14年度中に完了したい考えだが、今回のトラブルでまた目標達成が遠のく可能性もある。
ALPSはA~Cの3系統が並行して汚染水を処理している
ALPSは現時点でA~Cの3つの系統が並行して汚染水の処理を行っており、最終的には3つの系統が合流して、J1エリアと呼ばれる地域に設置されたタンクに送られる仕組みになっている。それぞれの系統の出口部分で、3日に1度サンプリング調査が行われている。東電の2014年3月19日の発表によると、3月14日の調査では異常がなかったものの、3月17日の調査では、B系の処理水で1リットルあたり1400万ベクレルの放射性物質が検出された。これは14日よりも10万倍以上高い値で、高濃度汚染水をほとんど処理できていないに等しい状態だ。18日にJ1エリアのタンクで採取した水でも、同程度に高い放射能濃度が確認されている。
3月14日から17日にかけてB系で処理された汚染水は約900トンで、A、C系で処理されたのが合計約1600トン。最大で約2500トンの汚染水がJ1エリアに流れ込んだことになる。この時点でアルプスとつながっていたJ1のタンクは21個。タンク1個あたり1000トン収容でき、7割程度処理水が入っていた。単純計算して、貯蔵されていた処理水は1万4700トンにのぼる。ここ数日の実績では、アルプスは3系統合わせて1日あたり約625トンを処理してきた。この処理能力から推定すると、今回のトラブルで24日分の処理をやり直さなければならないことになる。そのうえ、トラブルが原因で3系統とも動かせない状態なので、遅れはさらに拡大することになる。
東電の尾野昌之・原子力立地本部長代理は
「本来きれいな水入れたかったタンクを、汚い水を入れるタンクとして使うことに結果としてなってしまった。これは我々にとっても大きな痛手。そうしたことにならないように気をつけていくべきだった」
と話したが、汚染水が一気に21個のタンクに広がるわけではない上、問題が発覚してからタンクとタンクをつなぐ弁を閉じたこともあって「(21個)全部が汚くなっているかはわからない」と釈明もしている。
フィルターの交換作業が影響した?
焦点となるのが原因究明だ。東電によると、3月初旬に「クロスフィルター」と呼ばれる部品の調子が悪くなったため、交換作業を行っている。この作業が影響した可能性があるという。だが、この原因がきちんと究明されるかは不透明だ。
2月19日に発覚した高濃度汚染水漏れ事故では、弁の操作ミスが原因だと東電は説明しているが、はっきりしたことは解明されないまま。本当に「ミス」なのか疑問視する向きもあるからだ。例えば2月26日に開かれた原子力規制委員会の会合では、
「これが単なる操作ミス的なものを越えて、何らかの悪意というものがもしあるとすれば、非常に重要なセキュリティ上の問題も当然出てくる」(大島賢三委員)
という指摘が出ている。だが、田中俊一委員長は
「悪意を前提としたような調査というのは、あまり私は好ましくないと思う」
と述べ、徹底的な調査には消極的だ。この様子では、今回のトラブルについても規制委が積極的に原因究明を指示するとは考えにくい。