「素材産業は擦りこみが必要な産業で、新興勢力の参入障壁は比較的高い。革新的な素材開発には時間がかかる」
2014年3月14日、日本記者クラブで「東レにおけるイノベーション」について講演した東レの日覚昭廣社長はこう強調し、世界最大の生産規模を持ち、東レの有力事業に育ちつつある炭素繊維の優位性が中長期的に継続することに自信を示した。
20社近くの欧州メーカーが炭素繊維に参入しながら撤退
「炭素繊維は欧州メーカーや中国、韓国、台湾などのメーカーも取り組んだがよいものは出てこなかった。摂氏2000度以上の高温でアクリル繊維を安全に焼成し現場でしっかり作りこむ技術は、相当の技術と時間を兼ねなければ不可能ではないか」
東レの炭素繊維事業は1986年から本格生産を始めたが、2004年からボーイング787向けの構造材として納入を始めてから急速に売り上げを伸ばしており、2012年からは自動車市場向けにも本格参入している。20社近くの欧州メーカーが炭素繊維に参入しながら撤退したことと対比し、「東レの強みは素材の価値を見ること、アクリル繊維からの垂直統合の強み、航空機メーカーからの高度の要求急に対応する対応力」と指摘した。
来期も炭素繊維や繊維事業の好調が続く
東レの2014年3月期の業績は売り上げ1兆8500億円、営業利益1200億円と増収増益が見込まれ、来期も炭素繊維や繊維事業の好調が続き、連続で最高益を更新する見通し。好調な業績を背景に榊原定征会長を経団連会長に送り出すなど社会的貢献も求められている。日覚社長は、「イノベーション実現のためには中長期的視点での事業開拓とハンディキャップの解消が重要だ」と強調した。
長谷川洋三