「制作者は虚実に敏感であるべきだし、冷静で客観的な目を持つべきだ」
両番組に共通する「障害者の創作活動を巡る感動ストーリー」という描き方に、制作側の視点から疑問を投げかける識者もいる。上智大学文学部新聞学科教授の碓井広義さんは2014年3月10日、ビジネスジャーナル連載記事の中で、全ろうの佐村河内さんが作曲するという肝心なシーンがないまま、番組を成立させたことを問題視し、「なぜそうなったのか。事実よりも、『現代のベートーベン』という『物語』と、それがもたらす『感動』を優先させたためだ」と指摘する。
その上で、HRさんの番組を引き合いに出し「『こうあって欲しい』という母親の切なる願いは伝わってきたが、視聴者側が事実として受け止めるには無理があった。同時に、目の前で見ているはずの制作者はどう判断していたのかが気になった」と振りかえり、「重度脳障害の少年詩人と、被爆二世で全聾の作曲家。どちらも美談になりそうな題材であり、視聴者の感動を呼ぶドラマチックなストーリー性がそこにある。だが、そんな時こそ制作者は虚実に敏感であるべきだし、冷静で客観的な目を持つべきだ」と訴えた。
ちなみに大人になったHRさんは現在何をしているのか。2004年以降は目立った本の出版もないようだが、自身のホームページによると2011年に寺院で開催した講演会の様子が伝えられている。また最近では2014年1月のスピリチュアル系雑誌「スターピープル」に登場し、「肉体を消し、また肉体ごとテレポーテーションする」という人と対談を行っている。