Jリーグの試合で、浦和レッズのサポーターが「JAPANESE ONLY」と書いた横断幕を掲げた問題で、浦和に対して本拠地での無観客試合開催という処分が下された。1993年にJリーグが発足して以来、初めてとなる。
割を食うのは、対戦相手となる清水エスパルスだろう。選手のモチベーション低下が懸念され、チケットを買ったサポーターも落胆したに違いない。しかも入場料収入など2億円が消し飛ぶ。
サポーター「よりによって清水戦」と嘆き節
無観客試合の対象となるのは、2014年3月23日に埼玉スタジアムで行われる試合だ。Jリーグが3月13日に発表した制裁理由としては、差別的な内容である横断幕を浦和側が試合終了後まで撤去できなかった点や、過去にも今回と類似のトラブルを起こして制裁金を支払っていた点などが挙げられている。
主催試合が無観客となれば、当然入場料収入はゼロとなる。埼玉スタジアムは観客席数が6万3700席の大型スタジアムで、人気クラブの浦和は多くのサポーターで埋め尽くされる。およそ1億円を見込める入場料が消し飛ぶ。加えて、観客へのグッズ販売や飲食物の売り上げも立たない。サッカージャーナリストで「フットボールレフェリージャーナル」を運営する石井紘人氏は、「すべてを含めると2億円近い損害になるのでは」と推測する。
一部ファンの「暴走」により、試合を楽しみにしていたサポーターにとっては残念な結果だろう。とりわけ、清水側はとんだ災難だ。ツイッターには「付き合わされるエスパルス側はたまったものじゃない」といった投稿や、サポーターからは「よりによって清水戦…」との嘆きもあった。3月14日付のスポーツニッポン電子版によると、清水の高木俊幸選手は「大観衆の前で試合がやりたかったが、できなくて残念です」とこたえたという。
石井氏は、それでも今回の処分は妥当とみる。「もちろんチケットを買ったサポーター、特に清水側から不満が出るのはやむをえません。ただ過去の事例を考えると、無観客試合そのものが悪い、迷惑だ、制度を変えろといった大きなうねりは起きていないと思います」と話す。プロサッカーの長い歴史がある欧州では、無観客試合の裁定が下ると「ファンにとっては『仕方がない』と切り替える風潮が既にできているのではないでしょうか」。
制裁が下ったことで幕引きをしてはいけない
クラブリーグだけでなく、ワールドカップレベルでも無観客試合が行われることがある。なじみが深いのは、2006年のドイツW杯を前に行われたアジア最終予選、日本代表-北朝鮮代表の試合だ。北朝鮮は前の試合のイラン戦をホームの平壌で戦ったが、審判の判定を不服とした観客が暴徒化してモノを投げ込むなどした。国際サッカー連盟(FIFA)は事態を重く見て、次の日本戦でホーム開催権をはく奪。中立地のタイ・バンコクに変更したうえで無観客試合との制裁を下したのだ。
石井氏は当時を振り返り、「日本代表のサポーターも、もちろんスタンド観戦できませんでした。ただこの時も不平不満がサポーターの間で爆発したという話は聞きません。むしろ、スタジアムの外で必死に応援していたという記憶が残っています」と述べた。
無観客試合に処された浦和の責任は重い。ただ石井氏は「これですべてが解決、と幕引きをしてはいけない」と警鐘を鳴らす。スポットライトを当てるべきは処分内容ではなく、差別的な発言に対してというわけだ。差別に対してはFIFAや欧州サッカー連盟(UEFA)では非常に厳しくとらえ、厳罰を科す姿勢だという。今回の騒動を、差別的な横断幕やヤジを撲滅する契機にしなければ、「Jリーグ初」となった制裁が意味をなさなくなってしまう。