卓上コンロで提供する「牛すき鍋」が、牛丼チェーンファンの心をとらえている。通常の牛丼(並盛り)の2倍以上の価格ながら、人気は上々。吉野家に続き、すき家や松屋も販売を始めた。
目新しさに加え、この冬の寒さも追い風となっている模様で、今後も勢いを持続できるか注目される。
「やすい、はやい」を捨て新たな顧客層を開拓
先陣を切ったのは吉野家。牛丼に比べ脂身の少ない牛肉、白菜や長ネギなどの野菜、豆腐、平打ち麺を煮込み、一人用の卓上コンロに載せて提供する。食べている間も固形燃料でアツアツ。牛丼のように「かき込む」ことは難しい。
価格は、ご飯が付いた「牛すき鍋膳」(並盛り)が580円。牛丼(並盛り)280円の2倍以上だが、この冬の寒さも手伝って人気を集めている。
販売を開始した2013年12月の既存店売上高は、前年同月比16.0%増。2014年1月14.2%増、2月11.9%増と高い伸びを維持した。
吉野家は「うまい、やすい、はやい」が信条。だが「牛すき鍋」の価格は従来に比べ、安くはない。ある程度煮立ってから提供されるため、「はやさ」もない。客の滞在時間も長くなり、回転率は落ちる。
「やすい、はやい」を捨てたのは、新たな顧客層を開拓したかったからだ。牛丼チェーンの顧客層は、これまで急いで食べたい男性が中心。これを落ち着いて食べたい家族連れなどにも広げたかった。落ち込んだ客単価を回復させたいとの狙いもある。
鍋メニューの投入時期が明暗を分けた
吉野家は2013年4月、「吉野家史上最高のうまさへ」というコピーをひっさげ、牛丼並盛りの価格を従来の380円から他社並みの280円に値下げ。それ以降、大幅に客数を伸ばしている。一方で客単価は減少。既存店売上高は4月から3か月間、2ケタの伸びを示したものの、徐々に息切れし、9月には前年実績を割り込んだ。
業績も想定以下だった。吉野家ホールディングスは昨年10月、2014年2月期の連結業績予想を下方修正。営業利益は従来予想比47%少ない16億円、当期純利益は同75%少ない2億5000万円に引き下げた。牛肉など原材料の価格高止まりや、光熱費などの経費上昇が影響した。
そこで登場したのが「牛すき鍋」。客単価の対前年同月比割れは、依然として続いているものの、昨年12月は1.7%減と、11月の7.1%減から大きく改善した。「牛すき鍋」が客数、客単価を同時に引き上げる要因となっており、株式市場では10月時点の業績予想からの上ブレ期待も高まっている。
ライバルのすき家も2月中旬から「牛すき鍋定食」(580円)を期間限定で販売開始。2月の既存店売上高は前年同月比3.9%増と、30か月ぶりにプラスに転じた。一方、松屋は2月に一部店舗で「すき焼き鍋膳」(580円)を試験販売したが、本格展開が遅れ、5.7%減と2カ月連続のマイナス。鍋メニューの投入時期が明暗を分けた格好だ。
息を吹き返す吉野家だが、「牛すき鍋」だけに頼ってもいられない。アツアツで提供する特性上、夏の販売増は期待できないからだ。4月の消費増税により、高価格メニューが影響を受けると見方もある。今後も人気を維持できるかどうか、注目される。