国内損保最大手、MS&ADインシュアランスホールディングス(HD)は、柄沢康喜取締役(63)が2014年6月に社長に昇格するトップ人事行う。2月28日発表した。
ただし、新設する会長ポストに鈴木久仁取締役(63)が就任し、江頭敏明社長(65)は代表権のある取締役として残るという、やや複雑な構図で、合併会社ならではの工夫とも言えるが、組織の一体感のなさも垣間見える人事だ。トップ人事は6月の株主総会後の取締役会で正式決定する。
三井、住友のたすき掛けトップ人事にブレーキ
今回のミソは、柄沢新社長と鈴木新会長がそれぞれ傘下の主要損保子会社の現職社長である点だ。柄沢氏は三井住友海上、鈴木氏はあいおいニッセイ同和の社長であり、この社長職には6月以降も留任する。主要子会社のツートップが親会社の新社長、新会長に同時に就任し、「二人三脚でやってもらう」(江頭現社長)というのである。損保業界では「柄沢氏のMS&ADの社長就任は既定路線と見られていたが、大株主のトヨタ自動車なども巻き込んで、あいおい側が猛烈に巻き返し会長ポストをもぎとった」との解説が聞かれる。
江頭氏は三井住友海上のうちでも旧三井、柄沢氏は旧住友に属する。単に江頭→柄沢となれば三井、住友のたすき掛けが始まる可能性すらあったわけで、あいおい側は、まずはそこに一定のブレーキをかけたと見られているのだ。
まれに「社長が2人」という会社もないではないが、その場合は後ろで差配する実質的なトップがいるものだ。今回のケースはその類のオーナー系企業とも違い、二人三脚でリーダーは2人というのだから、金融界には危うさを感じる向きもある。
みずほ銀行が、昨年発覚した暴力団員らへの融資問題や、過去の2度の大規模システム障害の原因として、「旧3行意識の弊害が残る」ことが挙げられて久しい。損保業界でも、みずほに負けず劣らず、統合前の旧社ベースの派閥抗争の激しさが指摘されるのが、MS&AD。今回のトップ人事でもその一端をさらした格好だ。