北海道で大食漢トドの漁業被害広がる 「駆除枠制限」で威嚇射撃しかできず、打つ手なし

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   近年、シカやイノシシ、クマによる農作物被害がしばしば報告されているが、海にも漁師を困らせる動物がいる。トドだ。

   北海道では年間の被害額が16億円に上る。大食漢のトドは貴重な魚を大量に消費するが、かつて絶滅危惧種に指定されていたこともあり、今日でも駆除数には制限がある。

北海道近海で半年居座り、追い出し対策は効果ゼロ

トドといかに共存していくかが課題(出典:米魚類野生生物局)
トドといかに共存していくかが課題(出典:米魚類野生生物局)

   北海道が発表した2013年度の海獣類による漁業被害は23億円と、過去5年間で最悪を記録した。中でもトドの被害額が16億円と圧倒的に多く、前年度比でも1億円以上増えている。

   2014年2月28日放送の「Nスタ」(TBS系)では、ニシン漁で知られる北海道石狩市の漁港を訪ね、被害の大きさに焦点を当てた。漁獲のため沖に網が仕掛けられるのだが、トドが網を食い破ってまんまと獲物をさらってしまう。映像では、1匹もニシンがとれなかったうえ網を壊された漁師が何人も登場し、現状を嘆いていた。トドは、自ら泳いで捕まえるよりも網にかかっている魚を「拝借」した方がずっと楽だと学習したようだという。

   水産総合研究センターが実施したトドの食性調査資料を見ると、石狩市の被害全体の9割はニシンとみられる。道内でも場所によってはトドに食べ荒らされる水産物の種類が異なり、北部の宗谷ではイカ類がほぼ100%、利尻ではイカナゴ、知床半島・羅臼ではカレイやスケトウダラの被害が大きいと推察される。体重300キロ、なかには1トンにも及ぶ巨漢で、1日50キロもの魚を食べると言われている。北太平洋沿岸に生息し、11月ごろに北海道近海まで南下して5月ごろまで過ごす。

   「Nスタ」では、石狩市の漁港から少し離れた沖に浮かぶ岩の上に、数えきれないほどのトドがひしめき合っている様子を映し出した。専門家によると、近年ロシアで保護政策が奏功して数が倍増し、2万頭ほどにまで達しているという。その4分の1が北海道にやって来て、半年余り居座るのだ。

   岩に上らせないために漁師が鉄の棒を何本も打ち込んで柵をつくったが、その巨体で体当たりすると棒はひとたまりもなく、ぐにゃりと曲がってバリケードの用を足さなくなってしまった。トドが嫌いな色を岩肌に塗り、大型スピーカーを設置して大音量で追い払おうとしても、効果はゼロ。漁師たちの悩みは深まるばかりだ。

駆除数の枠を広げた場合、国際的な非難浴びる恐れ

   これほどトドが「我が物顔」でふるまっているのには事情がある。環境省によると、かつては絶滅危惧種に指定されていた。1990年代から徐々に数が回復し始めたため現在では「準絶滅危惧」となり、以前に比べると滅びる危険性は後退したが、今も保護対象であることに変わりはない。このため年間に捕獲、駆除できる数が制限されているのだ。

   水産庁が提示する捕獲可能数は、最新データが出ている2012年度で253頭。4年前と比べると100頭以上拡大している。ではこれで十分かと言えば、そうでもなさそうだ。「Nスタ」で取り上げられた羅臼の沖では、ハンターが海面に漂うトドに向けて威嚇射撃を繰り返した。だが射殺するのはご法度だという。その年に羅臼の海域に割り当てられた数はわずか十数頭で、テレビ撮影時にはすでに制限枠に達していたため威嚇するしか方法がなかったのだ。一方で石狩の海では、トドの頭数が岩の表面を埋め尽くすほどだったことを考えると、年間250頭ほどの捕獲枠では「焼け石に水」と言えよう。

   北海道では2013年7月に、オットセイやアザラシを含めた「海獣被害対策本部」を設置し、漁業被害を食い止める総合的な対策を進めている。駆除や追い払いを強化する一方、国に対して漁具被害への補償制度など漁業従事者に対する支援を求める。2014年2月1日には、札幌市で「日本海トド漁業被害対策緊急集会」が開かれ、道内の漁協関係者や高橋はるみ知事、道内選出の国会議員、また水産庁担当者や農林水産省の政務官が出席した。この席で自民党の中村裕之衆院議員は「絶滅危惧種は漁師だ」と、早急な対策の必要性を訴えた。

   しかし国が駆除数の枠を広げた場合、トドが今も準絶滅危惧に指定されている点を考えると国際的な非難を浴びる恐れがある。ロシアは保護を継続していることから、日本の姿勢に世界が厳しい目を向けるかもしれず、難しい対応が迫られそうだ。

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