駆除数の枠を広げた場合、国際的な非難浴びる恐れ
これほどトドが「我が物顔」でふるまっているのには事情がある。環境省によると、かつては絶滅危惧種に指定されていた。1990年代から徐々に数が回復し始めたため現在では「準絶滅危惧」となり、以前に比べると滅びる危険性は後退したが、今も保護対象であることに変わりはない。このため年間に捕獲、駆除できる数が制限されているのだ。
水産庁が提示する捕獲可能数は、最新データが出ている2012年度で253頭。4年前と比べると100頭以上拡大している。ではこれで十分かと言えば、そうでもなさそうだ。「Nスタ」で取り上げられた羅臼の沖では、ハンターが海面に漂うトドに向けて威嚇射撃を繰り返した。だが射殺するのはご法度だという。その年に羅臼の海域に割り当てられた数はわずか十数頭で、テレビ撮影時にはすでに制限枠に達していたため威嚇するしか方法がなかったのだ。一方で石狩の海では、トドの頭数が岩の表面を埋め尽くすほどだったことを考えると、年間250頭ほどの捕獲枠では「焼け石に水」と言えよう。
北海道では2013年7月に、オットセイやアザラシを含めた「海獣被害対策本部」を設置し、漁業被害を食い止める総合的な対策を進めている。駆除や追い払いを強化する一方、国に対して漁具被害への補償制度など漁業従事者に対する支援を求める。2014年2月1日には、札幌市で「日本海トド漁業被害対策緊急集会」が開かれ、道内の漁協関係者や高橋はるみ知事、道内選出の国会議員、また水産庁担当者や農林水産省の政務官が出席した。この席で自民党の中村裕之衆院議員は「絶滅危惧種は漁師だ」と、早急な対策の必要性を訴えた。
しかし国が駆除数の枠を広げた場合、トドが今も準絶滅危惧に指定されている点を考えると国際的な非難を浴びる恐れがある。ロシアは保護を継続していることから、日本の姿勢に世界が厳しい目を向けるかもしれず、難しい対応が迫られそうだ。