2014年9月からスタートするNHK「連続テレビ小説」のヒロインに、米国人女性が抜擢された。母国で女優として活動するが、特筆すべき代表作はなく、日本でもこれまで全く知られていない。
ここ最近は「あまちゃん」「ごちそうさん」と続けて好調な「連ドラ」での無名外国人の登場。いったいどんな人物なのだろうか。
ツイッターのフォロワー数は120人ほど
朝の連ドラの新作「マッサン」で、主役夫婦に選ばれたのが玉山鉄二さんと、米国人女優シャーロット・ケイト・フォックスさんだ。ニッカウヰスキー創業者、竹鶴正孝とその妻でスコットランド出身のリタをモデルとした、「亀山政春」「亀山エリー」の役をふたりが演じる。
驚きはフォックスさんの起用だろう。もちろん現役の女優だが、その存在は謎に包まれている。公式サイトは閉鎖され、交流サイトでの宣伝活動も活発ではなく、かろうじてツイッターにしばしば投稿しているものの、フォロワーは2014年3月5日現在で120人程度にとどまっている。しかも最近になって、日本人フォロワーが急増しているようだ。
海外映画やテレビの情報データベース「IMDb」に、フォックスさんのプロフィルが見つかった。出演映画は「Buried Cain」という1作だけが記載されている。同作品のフェイスブックのページによると、米南部の田舎町を舞台に、幼いころから一緒に育った女性を巡る兄と弟の愛憎を描いたものだ。公開日が2014年6月15日予定で、現段階では上映されていない。フォックスさんは物語のかぎを握る女性の役で、準主役級のようだ。
封切後に大ヒットする可能性はあるが、今のところ全米の話題をさらうほどのインパクトは聞こえてこない。作品の監督を務めた男性は動画配信サイト上で、製作のための寄付を視聴者に呼び掛けていた。潤沢な予算でつくられている話題作ではなく自主製作映画だと思われる。
一方でフォックスさんは2013年、北イリノイ大学でファインアート(演技)を専攻し修士号を取得。ダンスや歌唱と特技とし、特にダンスではバレエからサルサ、ジャズと何種類もこなす。米国生まれで、「マッサン」の記者発表会の席でもいわゆる「米国英語」を話していたが、祖母がスコットランド出身で本人も「スコットランドなまり」の英語が話せるそうだ。舞台やドラマ出演の経験もあり、動画サイトには出演ドラマとみられる映像が確認できた。
「日本語話せない」のにオーディション台本をクリア
「マッサン」のエリー役は国内外でオーディションが開かれ、応募総数500人超の中からフォックスさんが役を勝ち取った。演技力とセンス、情熱にあふれ、日本語が話せないにもかかわらずオーディション用の台本をクリアしたところが選考でのポイントになったようだ。
「連ドラ」は、既にいくつもの代表作を持ち地位を確立している女優をヒロインに起用する作品もあれば、「新人の登竜門」としての役割を果たすケースもみられる。2013年放送の「あまちゃん」で大ブレイクした能年玲奈さんは、映画デビューが2010年で、まだ若手の域だ。まれではあるが、新人がいきなりヒロインに抜擢された過去もある。2004年の「天花」で主役を務めた藤澤恵麻さんは、デビューそのものが連ドラ作品だったのだ。フォックスさんの場合、経歴を見る限りではまだ新人と言ってもよいレベルだろう。
外国人で日本語を話さない女優が連ドラの主役となるのは、もちろん初めて。「ダイヤの原石」を磨く意味ではこれ以上ない人選だろうが、日本はおろか米国でも知名度があるとは言えないだけに、未知数な部分も多い。
ニッカウヰスキーの公式サイトを見ると、役柄のモデルである竹鶴リタは英国から日本に嫁ぐと、日本の生活になじむため努力を重ね「日本の女性以上に日本人らしい女性となった」。日本語も習得し、大正から昭和、外国人に対する目が厳しかった戦時中も含めて生涯夫を支え続けた。「自分の夢をかなえるために日本に来た」と意気込むフォックスさんが、竹鶴リタのように日本に「どっぷり」と浸かり、視聴者を引き付けられる女優に成長できるだろうか。