学生の読書時間の減少が浮き彫りとなった。全国大学生活協同組合連合会の調査で、全く本を読まない学生が初めて4割を超えたのだ。
電子書籍を含んだ読書時間でも、近年は減り続けている。米国のトップレベルの大学では在学中に500冊近くの本を読むといい、大きな差が見られる。
大学へ向かう電車内「学生はみんなスマホのぞいている」
2014年2月26日に公表された「第49回学生生活実態調査」の概要報告によると、調査に協力した全国の国公立、私立大の学部学生8930人の1日の読書時間は平均26.9分で、同じ方法で調査している2004年以降最も短くなった。読書時間ゼロの学生は40.5%に達したという。
過去10年を見ると、男子学生は2010年が最も長く平均35.9分だったが、直近の調査では29.2分に減っている。女子学生の場合、2004年の31.6分からほぼ一貫して下がり続け、2013年では24.3分にまで落ち込んだ。1か月間に書籍に費やされる金額も、直近では2004年比で自宅生が490円、下宿生は830円それぞれ少なくなっている。紙版、電子版を問わず本を買わなくなったわけだ。
「本を全く読まない学生が4割」の報道に、国際ジャーナリストで明治大学国際日本学部教授の蟹瀬誠一氏はツイッターで「驚きです。大学でも米国と比べると本を読ませません」と投稿。医療ジャーナリストの伊藤隼也氏も「大学生は何してるの?スマホ三昧?」と不思議がった。これに対して「だってバイト三昧で勉強時間ないから仕方ない」との反論も見られた。
都内の私立大学教員に聞いた。個々の学生がプライベートの時間にどれほど本を読んでいるかは分からないという。ただ、朝一番の授業で大学へ向かう電車内で大勢の学生を見かけるが、「読書している学生は少なく、みんなスマートフォン(スマホ)の画面をのぞいている印象が強い」そうだ。
全国大学生活協同組合連合会に電話取材すると、読書時間が減っている原因は明確なデータの裏付けが現時点でされていないものの、学生から聞いた話として、電車での通学時間中にかつては本を開いていたが、近年はスマホがこれに取って代わった点を上げた。ウェブサイトを閲覧したり、交流サイトやゲームに興じたりして時間を過ごす学生が増えたわけだ。
学生の読書量の少なさに警鐘を鳴らす識者もいる。「東洋経済オンライン」編集長の佐々木紀彦氏は、米スタンフォード大学へ留学した経験がある。2011年刊行の著書「米国製エリートは本当にすごいのか?」では、米大学での読書事情を踏まえて「日米の学生の差を生んでいるのは、インプット量、読書量の差なのです」と指摘している。
スタンフォード大では「ヘトヘトになる」読書量
佐々木氏は「人と知力で差をつけるカギとなるのはインプット量」「ある程度、知識を整理する力とアウトプット能力があれば、『読書量』と『経験量』こそが、知力の大部分を決定づけるということ」と、読書の大切さを説いている。
スタンフォード大学は3学期制で、各学期は10週間ずつのカリキュラムだという。学生は各期に4クラスを受講するのが一般的で、授業数は年間で480回に上る。学生が1回の授業あたりに200ページほど読むとすると、1年あたり480冊分の本を読破することになる。課題図書は難解で、流し読みでは理解できる内容ではないそうだ。佐々木氏自身、2年間の留学生活で「ヘトヘトになりました」と明かしている。
経営コンサルタントの波頭亮氏も、実業家でMITメディアラボ所長の伊藤穰一氏との対談で同様の説を唱えている。「東洋経済オンライン」2013年8月18日の記事で、「最近見た、最もショッキングな数字は、大学卒業までに読むテキストの量の日米比較で、米国の大学生は4年間で400冊読むのに対して、日本の大学生はわずか40冊しか読んでいないということらしいです」と述べている。続けて「基礎学習、さらにいえば努力の総量が、日本人には足りないように感じます……米国に限らず世界のトップランナーたちはそれくらい勉強している。ちょっと日本人はラクしすぎていると言わざるをえない」と苦言を呈した。
こうした状況に危機感を持ち、教職員と学生が協力して読書を推進する運動を実施している大学はいくつもある。例えばフェリス女学院大学(神奈川県)の場合、学生が主体となって2002年度に「読書運動プロジェクト」を立ち上げた。読書会や関連の映画上映会、講演会などバラエティーに富んだイベントを開催、また学生の「おすすめ本」を紹介するなど、読書への関心を深めてもらおうと努力している。
個々の大学での取り組みは見られる。しかし全体として大きなうねりとなっているとは言えず、読書時間の減少に歯止めがかかっていないのが現状だ。