インターネット上の仮想通貨ビットコインが話題になっている。それは皮肉にも、東京都内にある大手取引所「マウントゴックス」が2月26日(2014年)未明に取引全面停止を表明したことで、社会問題として注目を集めている。
もちろん、この事件は、ビットコインのシステムに問題があったわけでなく、その他のビットコイン両替所や関連企業は、問題なく機能し続けている。外貨両替所はいたるところにあるが、その一つが閉鎖されたからといって、ドル通貨が崩壊したとはいわないものだ。
問題は「価値の保蔵」
この事件の詳細は不明であるが、マウントゴックスがハッキングの被害を受け、顧客のビットコインが盗まれていたようだ。その被害額は300億円超との報道もある。
ビットコインが、これまでのいわゆる電子マネーと違っているのは、二重使用のチェックの技術が異なり、そのために管理コストが格段に低いことだ。この技術的な仕組みは管理者を必要としないためだが、これがビットコインの魅力でもあり、人によっては危ないシロモノにも見える。
経済学では、入門コースで貨幣の3要素を勉強する。(1)価値の尺度、(2)交換の媒介、(3)価値の保蔵である。(1)価値の尺度とは、世の中で提供されている財・サービスに対して金額表示できることであるが、実際にビットコインが使われていることから、これは問題ない。(2)交換の媒介は、財やサービスを見合った貨幣を出すことにより交換できることだが、これも実際にビットコインが使われているから、満たしている。
問題は、(3)価値の保蔵である。ビットコインの発行者はいないが、ドルや円で換算すると、ビットコインの価値は大きく変動する。もちろん資産価格の変動は大きく、円ドルレートも大きく変動するので、ビットコインだけが変動するわけではない。しかし、日本にいれば円が通用するために、円ドルレートの変化は関係ない。もしハイパーインフレにでもなれば、貨幣価値は毀損して、(3)価値の保蔵の手段としては失格になるが、インフレ目標政策をもっている先進国ではハイパーインフレは起きていない。インフレ目標政策が管理通貨制の持つ欠点を補った形になっている。
ビットコインは今のところ、どこかの国で使おうとすると価格変動をもろに受けてしまうので、(3)価値の保蔵の機能は十分に果たしていない。この点は、クルーグマン・プリンストン大教授も指摘している。
避けて通れなくなった規制議論
いずれにしても、ビットコインについて、これまでどのような規制が必要か、どこが規制すべきかといった問題は議論されなかったが、こうして社会問題になったので、避けて通れなくなった。
もっとも、国や中央銀行の規制を受けないといったこともビットコインの魅力であった。今さら規制といっても場違いな感もあり、すべては自己責任で貫徹する方がすっきりしているかもしれない。
金融商品取引法の規制対象として有価証券や通貨があるが、ビットコインはそれらには含まれない。金融庁や財務省も、管轄下でないといっている。犯罪被害や消費者被害という観点から、警察や消費者庁が実態把握につとめるだろう。そうなると、かつて社会問題になった「円天」と同じような扱いになって、信用は失墜するだろう。ビットコインはなかなかよくできた仕組みだけに、ちょっと気の毒な気もする。まあ、創始者(Satoshi Nakamotoという正体不明の人物)はしっかり数百億円以上ももうけたのではないか、と筆者はみているが。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2005年から総務大臣補佐官、06年からは内閣参事官(総理補佐官補)も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「財投改革の経済学」(東洋経済新報社)、「さらば財務省!」(講談社)など。