「価値観が固定され、自分が正しいと声を荒げて攻撃してくる大人もいる」
子どもたちが心変わりしないのを見て、魔王はこう続けた。
「持ってる枕をその胸に抱きなさい。お前たちは何におびえている?お前たちは世間から白い目で見られたくない、そういう風におびえているのか?だからそうなる原因になるかもしれないあいつを排除する、そういうことなんだな。それは表面的な考え方じゃないのか?もう一度、この状況を胸に入れて、考えることをしなさい。お前たち自身が知るあいつは本当にそうなのか?乱暴者でひどい人間か?そんな風にお前たちはあいつから一度でもそういう行為や圧力を受けたことがあんのか?」
子どもたちは首を横に振る。
「ならばなぜかばおうとしない?世の中がそういう目で見るならば、世の中に向けて、あいつはそんな人間じゃないって、なぜ戦おうとしない?あなたたちはあの人のことを知らないんだって、一人一人伝えようと、そう戦おうと、なぜ思わない?臭いものにふたをして、自分とは関係ない、それで終わらせるつもりか?大人ならわかる。大人の中には価値観が固定され、自分が受け入れられないものを全て否定し、自分が正しいと、声を荒げて攻撃してくる者もいる。それは胸にクッションを持たないからだ。わかるか?そんな大人になったらおしまいだぞ?話し合いすらできないモンスターになる。だがお前たちは子どもだ、まだ間に合うんだ。一度心に受けとめるクッションを、情緒を持ちなさい。この世界には、残念だが目を背けたくなるようなひどい事件や、辛い出来事が実際に起こる。だがそれを自分とは関係ない、関わりたくないとシャッターを閉めてはいけない。歯を食いしばって一度心に受けとめ、何がひどいのか、何が悲しいのか、なぜこんなことになってしまうのか、そう考えることが必要なんだ。お前たちはかわいそうか?本当にそうか?両親がいても、毎日のように言い争いをしている、その氷のような世界にいる子どもたちはどうだ。両親が揃ってるくせにと冷たく突き放すのか?もっと辛い子もたくさんいる。誰かに話したくても言えない子だっている。それでもお前たちは世界で自分が一番かわいそうだと思いたいのか?違うだろ。うんざりだろ。上から目線でかわいそうだなんて思われることに。何がわかるってんだ。冗談じゃない。かわいそうだと思うやつこそがかわいそうなんだ。つまらん偽善者になるな。つまらん大人になるな。つまらん人間になるな。お前たちが辛い境遇にあるというのなら、その分人の痛みがわかるんじゃないのか。寂しい時、そばに寄り添って欲しい、自分がそうして欲しいことをなぜしようとしない。お前たちが心にクッションを持てないというのなら、これからたとえどんな条件のいい里親が来たとしても、実の親が迎えに来たとしても、俺はこの家からお前たちを出さんぞ!絶対に出さん」
魔王は、ロッカーが子どもたちの特徴をまとめたノートをみんなに見せた。子どもたちは涙を流し、帰ってきたロッカーに「ごめんなさい」と謝罪、ロッカーは笑顔でみんなを許した――という内容だった。