複合の個人ノーマルヒル銀メダルの渡部暁斗選手(25)が自身のツイッターで、カメラマンからメダルを噛んでほしいと要求されたが噛まなかった、そういったポーズは好まないため拒否できて「良かったというのが本音」などとつぶやいた。
オリンピックでメダルに輝いた選手がそのメダルを噛んでポーズを取る、それが慣例と思っている人もいるのだが、2006年のトリノ五輪で金メダリストとなったフィギュアスケートの荒川静香さんも噛むのを拒否した。ネット上ではメダルを噛むべきか否かの議論が起きている。
噛む行為は「絵になる」とメディアは考えている
銀メダルに輝いた渡部選手は、14年2月14日の記者会見でカメラマンからメダルを噛んでほしいと促されると、「『メダルかんじゃだめ』と言われました」と語り拒否した。スキー・ノルディック複合の成田収平監督から禁止令が出されている、というのが理由らしいのだが、その翌日に自身のツイッターで、
「メダル噛んで写真撮るのにはあまり乗り気じゃなかったから、避ける理由ができて良かったというのが本音」
などと心境を明かした。90年代からメダルを噛んでポーズを取る行為が世界的に広がり、日本でもお約束のように思っている人もいるのだが、荒川さんのように「歯形が付くし、噛む理由がわからない」などと拒否する選手もいる。ロンドンオリンピックの女子卓球団体銀メダルの福原愛選手も噛まなかった。スポーツではないが、ノーベル医学・生理学賞に輝いた山中伸弥京都大教授も受け取ったメダルを噛んでほしいと頼まれ「そういうことはできません。貴重なものなので」と断ったが、この時は噛んでほしいと要求した記者に対し「不謹慎だ」といった激しい批判が起こった。どうやらメダルを噛むという行為はメディア側からの要求で行われ、そうした写真や映像は「絵になる」し、視聴者や読者受けがいいとメディアは考えているようなのだ。
では、選手がメダルを噛むようになったのは何がきっかけだったのだろうか。ネットでよく「起源」だと例に出されているのが1988年のソウルオリンピックの男子水泳200メートル自由形で優勝したオーストラリアのダンカン・アームストロング選手の写真で、読売新聞が「勝利ガリガリ」という見出しで報じたものだ。
キスするしぐさの方がかわいく見える?
実は、読売新聞は10年後の1998年3月19日付けの夕刊で、この写真についてと、メダルを噛む行為の「起源」を説明している。この写真の配信元はロイター通信で、オリンピック選手がメダルを噛んでいる写真がメディアに出たのはこれが初めてだと考えられる。写真説明には「勝利の味を、文字通りかみしめる」となっていたのだが、ロイター通信とAP通信になぜ噛むことになったのかを取材したが「よく分からない」という返事だった。そして噛む行為はソウル五輪以前にもあった可能性もあり「起源は確定できず」と締めている。
日本人選手がメダルを噛む行為はよろしくない、という意見は識者からも出ていて、前開星高校野球部監督の野々村直道さんはサンケイスポーツ の12年8月1日付けのコラム「末代までの教育論」で、メダルに輝いた日本人はいかに国を背負った重圧と責任の中で勝ち進んだかを知るべきだ、とし、
「最高の栄誉である金メダルを獲ってもメダルを噛むなかれ!(メダルは名誉ある勲章)」
と述べている。また、「明治天皇の玄孫」竹田恒泰さんは、14年2月8日に自身のツイッターで、「メダルを取る可能性がある日本選手」に宛て、メダルを噛む行為をしないよう求め、
「品がない上に、メダルを屈辱することになる」
と書いた。
ネットでもメダルを噛む行為は是か非かといった議論が起きていて、
「かじるのはみんなやってるから私もってやつだろ?間抜けすぎでかっこ悪いよ」
「メダルをかじるより、キスするしぐさの方がかわいく見えるんだが」
「バカ取材陣の要求もあるんだと思う。吉田(レスリング、吉田沙保里)は『やりたくない思い』『要求』との軋轢からぎこちなく遠慮がちにやっていた」
などといった意見が出ていて、噛む姿なんて見たくない、といった意見が多いようだ。