2014年4月の消費税率の引き上げを前に、日本の景気はすでに「下り坂」ではないのか――。
国際収支や企業の設備投資の先行きをみる機械受注、生活実感としての景況感を調査する景気ウオッチャー調査(街角景気)などの経済指標をみても、景気の先行きを懸念するものばかりだ。
強まる経常赤字への転落危機、高まる「日本売り」のリスク?
2013年の国際収支状況(速報)によると、経常収支の黒字は前年比31.5%減の3兆3061億円で、黒字額は比較可能な1985年以降で最も少なかった。原因は過去最大、10兆6399億円もの貿易赤字。円安を背景に原油などの燃料コストが高止まりしていることに加えて、日本企業の現地生産が進んだことや中国など新興国の製品との競争が激しくなったことで、輸出数量が伸び悩んでいる。
「円安になれば輸出が増える」というシナリオは、もはや過去のことのようで、いまでは円安が進むほど、むしろ「貿易赤字が膨らむ」構造に変容しつつある。ここでアベノミクスの「計算」が狂いはじめているわけだ。
経常赤字への転落危機が高まり、しかも財政赤字との「双子の赤字」が意識されることになれば、金利の急騰など金融市場が不安定になる恐れがある。株式だけでなく、債券に円と「日本売り」のリスクが高まる可能性が出てくる。
内閣府が2014年2月12日に発表した13年12月の機械受注統計では、民間設備投資の先行指標である「船舶、電力を除く民需」の受注額(季節調整済み)が前月比15.7%減の7441億円だった。3か月ぶりのマイナスだが、下げ幅はリーマン・ショック直後の2009年1月の11.9%減を上回り、比較可能な05年4月以降では過去最大だった。
消費増税を控えた駆け込み需要の反動や景気減速への懸念が、設備投資への意欲を後退させていることが顕著に表れた。
13年10~12月期の受注額は、前期比1.5%増の2兆4339億円。甘利明経済財政・再生相は「(10~12月期でみれば)悪くない」と強調したものの、伸び率は4~6月期の6.8%、7~9月期の4.3%と、ジワジワと縮小している。
企業収益は改善、いまの円安は「悪い円安ではない」
2014年1月の街角景気もさえない。足もとの景気の実感を示す現状判断指数は、前月比1.0ポイント低下の54.7で、3か月ぶりに悪化。2~3か月先の景気を占う先行き判断指数は5.7ポイント低下の49.0。これは東日本大震災が起こった11年3月以来の大きさで、14か月ぶりに50を下回った。
モノの値段は上がっている。最近は4月以降に消費増税分の上乗せが難しくなると判断する企業が増え、生活必需品は前倒しの、いわば「駆け込み」値上げの様相。消費者の増税とともに、値上げラッシュによる家計へのしわ寄せは見逃せない。
消費増税を前に、多くのエコノミストらが景気後退は「一時的」とみているが、こうしてよくない経済指標が並ぶと、「一時的」ではすまないのではないかとも思わせる。
第一生命経済研究所経済調査部のエコノミスト、大塚崇広氏は「海外経済の先行きが不透明なことや株価が軟調なこと、消費増税への不安などによって消費マインドが下がっていることは否定しませんが、1997年(消費税の5%引き上げ)のような、大きな腰折れリスクはないと考えています。円安も経常赤字を招くほどの急激ではありませんし、なにより輸出企業を中心に企業収益は(円安効果で)大きく改善しています。『悪い円安』の心配はないと考えています」と話している。