2014年度予算の国会審議もこれからというのに、早くも法人税引き下げの議論が始まった。企業の国際競争の条件として、法人税率が重みを増しているとして、安倍晋三首相が引き下げに意欲を示している。
ただ、税率を1%さげると4700億円の税収減になるだけに、代替財源をどう確保するかが大きな焦点になる。
「本年、さらなる法人税改革に着手する」
法人税の実効税率は35.64%(2014年度、東京都の場合)。東日本大震災の復興財源確保のため2.37%上乗せして38.01%に引き上げられていたのを、2013年12月決定した2014年度税制改正の中で、上乗せを2013年度いっぱいで1年前倒しして廃止することになった。
この議論で、安倍首相は、企業の国際競争力強化の一環でアジア諸国並みの20%台への引き下げに意欲を示したが、自民党税制調査会(野田毅会長)・財務省が押しとどめた。安倍首相サイドは、与党税制改正大綱に、「引き続き(法人実効税率引き下げの)検討を進める」との表現が盛り込まれたことでひとまず矛を収め、先送りされていた。
ここにきて、法人税率引き下げの議論を仕掛けたのは、もちろん安倍首相サイド。1月20日の経済財政諮問会議(議長・安倍首相)で、佐々木則夫・東芝副会長ら民間議員が25%程度への引き下げを提言した。もちろん、安倍首相と気脈を通じてのことで、安倍首相自身、直後の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)に乗り込み、講演で、「本年、さらなる法人税改革に着手する」と宣言した。具体的に、6月に策定予定の新たな成長戦略に法人税引き下げを盛り込みたいというのが首相の意向とされる。
「租税特別措置」や「赤字繰越控除」が縮小か
首相が議論を急ぐのは、財政出動と超金融緩和のアベノミクス第1、2弾で景気が上向いている流れをさらに加速して「好循環」を実現するための「成長戦略」の「目玉」として、法人税率引き下げを位置付けているからだ。
そこで、最大の問題が税収の穴埋めをどうするかだ。税率1%で4700億円、首相サイドが構想する25%水準へ約10ポイント以上引き下げれば、5兆円規模の減収になる計算だ。これは、2014年度予算の税収の1割分に相当することになる。
法人税減税の穴埋め候補で想定されるのは、主に2つ。一つが「租税特別措置」の見直し。研究や投資など一定の条件をクリアした企業の法人税を減免する仕組みで、2014年度予算で、その減免額は9000億円に達する。法人税率2%分だ。これを縮小・廃止し、課税ベースを拡大し、法人税率引き下げの一部を埋めようというのだ。
もう一つが「欠損金(赤字)繰越控除」。ある決算期の赤字を、次の期以降の黒字と相殺できる仕組みで、過去の赤字が大きいと、大幅な黒字でも法人税負担が大幅に軽くなる。不良債権処理で大赤字を続けた大手銀行が10年以上にわたって法人税を納めていなかったとか、政府の支援で経営再建された日本航空がこの制度で納税を免れ、ライバルの全日空が「不公平だ」とかみついたのは記憶に新しいところ。年間の法人税軽減額は2兆円規模に達する。現在、繰越期間は9年だが、これを短縮しようという案が浮上している。
法人税率を下げても税収はむしろ増える?
このほか、企業が子会社などから受け取った配当を収入に含めなくてもよいという「受取配当の益金不算入」(軽減規模年間1兆円)の圧縮も検討課題になる可能性がある。
法人税率を下げても、企業活動が活発になることで収益が改善し、税収はむしろ増える、または理論値ほどは下がらないという議論もあり、そうした視点を含め、どんな規模・テンポで税率を下げながら、どの程度、穴埋め財源を確保するか、複雑な議論が展開される見通しで、着地点はなかなか見通せない。
ただ、法人税減税には「企業優遇」との批判がついて回る。消費税増税で国民が広く増税になる中での企業減税には、当然、世論の風当たりも強い。やはり消費税の転嫁などで苦労する中小企業も、7割が赤字決算で、法人税減税をしても「7割の企業は恩恵を受けられない」(麻生太郎副首相兼財務相)だけに、「大企業優遇」との批判も出てくるところ。
「まず大企業を中心に企業収益を好転させ、雇用・賃金などの形で国民に恩恵を広げるのが安倍政権の経済政策」(大手シンクタンクのエコノミスト)。主に円高で大企業の収益が改善しただけに、賃上げでどこまで国民に恩恵が広がるか――法人税減税には、春闘の行方が大きなカギを握るのは間違いない。