「震災直後は命が助かったことに満足していたが、時がたつにつれて、だんだんと悲しみが増してきた」
「仮設住宅の被災者は、元気な人とドロップアウトする人と、『鋏(はさみ)状格差』が生じている。行政はその差を狭める努力をしてほしい」――。
1月16日に大槌町内の小鎚仮設団地集会場で開かれた「町長とのお茶っこの会」。仮設住宅に住む被災者は、碇川豊(いかりがわ・ゆたか)町長に、気持ちの揺れを打ち明けたり、町政に注文をつけたりしました。
町長と仮設住宅の住民が懇談する「お茶っこの会」は、2012年8月に始まりました。町長が、月に2、3回、仮設住宅の集会所や談話室に出向き、復興状況を説明、質疑を交わします。住民に復興の情報を届ける一方、要望や苦情を聴き、その内容を町政に反映させようとする狙いがあります。
参加者は15人から20人ほど。平日の昼間の時間帯に開かれることが多く、女性の姿が目立ちます。開始から2014年1月16日までに25カ所で開かれ、延べ400人を超える住民が参加しました。
大槌町内の仮設住宅には、2014年1月31日現在で1879戸、4144人が住んでいます。徐々に減ってきているとはいえ、震災から約3年間を経過した今も、全町民の約3分の1に当たる被災者が仮設住宅暮らしを強いられています。仮設住宅は大槌川、小鎚川沿いの48カ所に点在しています。独り暮らしのお年寄りが少なくなく、復興情報が十分に伝わらないきらいがあります。
社会学者の清水幾太郎(1907~1988)は「流言蜚語(ひご)」(1937年・日本評論社、2011年・ちくま学芸文庫)の中で、災害とデマとの関係を分析し、情報の大切さを説いています。情報過疎に陥りがちな大槌町の仮設住宅でも、例えば、「復興が遅れているのは町役場の職員が机の上に書類を積んだままにしてサボタージュしているからだ」といったたぐいの根拠のないデマが流れることがあります。
復興情報が公開され、その情報が、住民に、わかりやすく正確に伝えられ、その結果として、復興に向けて住民の心が一つにまとまらなければ、まちづくりは前進しません。「お茶っこの会」は、単なる談論にとどまらない役割を担っているのです。
(大槌町総合政策課・但木汎)
連載【岩手・大槌町から】
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