日本でバレエを習う人は40万人以上もいて、今や世界でもバレエ大国になっている。2014年2月1日にスイスで開催された若手バレエダンサーの登竜門「ローザンヌ国際バレエコンクール」では、優勝、準優勝を日本人が占めるという快挙を成し遂げた。
日本をバレエ大国に持ち上げ、世界トップ級の実力が得られるようにしたきっかけは何だったのだろうか。
コンクールは年100回開催
「もう本当にバレエ熱が凄いんですよ。お子様の習い事としてだけでなく、お母さん以上の年齢の方も習いに来ていまして、みなさん上手く踊れるようになろうと必死に頑張っています」
そう話すのは数々の有名ダンサーを輩出してきたバレエスタジオ担当者だ。こうした専門スタジオだけでなく、都内ではスポーツクラブのレッスンスケジュールにバレエが組み込まれ、人気が定着している。
昭和音大短期大学部の小山久美教授らが2012年に推計したところによれば、バレエ教室は全国各地に4630あり、学習者数は40万人以上もいる。また、国内で行われているバレエコンクールは100を超えているという。
日本人はもともとバレエが大好きで、女の子の習い事ではバレエかピアノというのが定番だった。ただし、いくらバレエが好きで上手くても、日本ではプロとして活躍する場が殆どなく、職業にしても食べていけるかどうかわからず、趣味で終わらせる人が殆どだった。
専門家によると、状況を変えたのは熊川哲也さん(41)の登場だった。熊川さんは1989年にローザンヌで優勝し、世界3大バレエ団の一つ、英国ロイヤル・バレエ団に東洋人として初めて入団し大活躍した。テレビやCMにも引っ張りだこで、ロイヤル・バレエ団を退団後さらに勢いを増し、自らバレエ団も設立している。つまり、プロとしてバレエでも成功できることを証明したわけだ。
欧米各国では国立のバレエ団が多数あるほか、ダンサーが演じる公演も多い。しかし日本では演劇やコンサートと比べると微々たるものだ。バレエダンサーのプロを目指す人たちは、熊川さんに習って海外のコンクール出場をめざし、上位に入って海外のバレエ団への入団を目指す、ということになったようだ。
「バレエは独特の様式がありますので、海外から優秀な指導者を招いたり、コンクールで勝ち上がるための研究を行ったりすることで着実に実力をつけて、今では海外の様々なコンクールで上位入賞を果たすことができるようになりました」
と専門家は説明する。
バレエ人口の中心は今や日本、中国、韓国といったアジア
そして、海外のコンクールに出場するためには日本国内でのコンクールで優勝するなどの実績が必要だ。そのせいもあって、コンクールの数が10年ほど前から急増し、ダンサーはそのコンクールを梯子しながら凌ぎを削っているそうだ。
日本バレエ協会によると、今や日本はバレエ人口では世界の大国であり、その後を中国、韓国が追っていて、特に韓国の伸びは著しい。
「バレエ人口の中心は、日中韓のアジアに移ろうとしています」
と打ち明ける。ただし、少子化の影響で日本ではバレエを習う子供の数が減少し、全体ではバレエ人口は横ばいだという。12年のローザンヌでは菅井円加さん(19)が優勝し、今回は長野県の高校2年の二山治雄さん(17)が優勝、2位には横浜市の高校1年の前田紗江さん(16)、6位にもモナコ在住の加藤三希央さん(18)が入りなんと入賞者6人のうち3人が日本人だった。これでさらに国内のバレエ人気が高まるのではないかと質問したところ、ローザンヌの優勝ではさほどの影響はないのだという。
「ローザンヌはあくまで若者を対象にしたコンクールで、入賞者はおそらく各国のバレエ学校に留学し、プロを目指します。ローザンヌの優勝は素晴らしい事ですが、実は、ロイヤルやオペラといった劇場は研究生をコンクールに出したがりません。従って入賞者以上のプロフェッショナルが研究生にいる可能性があり、入賞者はこれからそうした方々と競うことになるでしょう。プロとして活躍できるかは、これからなんです」