前方をカメラやレーダーで監視、障害物を検知して自動的にブレーキをかけ衝突を回避したり、被害を軽減させたりする「プリクラッシュブレーキシステム」(自動ブレーキ)を搭載するクルマが続々と登場している。
「ぶつからないクルマ」がキャッチフレーズの、富士重工業(SUBARU)の「EyeSight (ver.2)」などで、「安全性能」への関心の高まりとともに認知度が上昇している。
国土交通省は2010年まで「自動停止」を認めていなかった
国土交通省は、ドライバーが「どうせ自動で止まる」と過信することで事故の被害が悪化することを恐れ、2010年までプリクラッシュブレーキシステムの「自動停止」を国産車に認めていなかった。
それをドライバーに過信を与えない範囲に限って、衝突回避システムを実用化。当初の衝突回避を支援するシステムから、現在は自動停止するシステムが主流になっている。
SUBARUの「EyeSight Ver2」は、時速30キロメートル以下であれば障害物との衝突を回避、もしくは被害の軽減が可能なシステムで、2010年5月発売の「レガシィ」に搭載した。
それをきっかけに、トヨタ自動車がレクサスLSに搭載した「プリクラッシュセーフティシステム」を発売。三菱自動車の新型アウトランダー搭載の「e‐Assist」や、13年にはマツダが新型アテンザに搭載した「i‐ACTIVSENSE」、ホンダのフィットHVの「シティブレーキアクティブシステム」、日産自動車のノートやセレナなどに搭載する「エマージェンシーブレーキ」などが続々と登場した。
軽自動車では、ダイハツ工業の「スマートアシスト」を搭載したムーヴが12年に初めて発売された。
「自動ブレーキ」が注目される背景には、開発が進み、低価格化が進んでいることがある。当初は搭載に10万円以上かかったが、最近は3万~5万円程度で搭載できるようになった。
EUでは2013年11月から搭載が義務化
また、ユーザーの安全性能への意識が高まっていることもある。「自動ブレーキ」は不注意による事故を防ぐとともに、運転者の負荷軽減につながる技術として人気を集めている。
それが新たな需要の掘り起こしにつながっており、自動車メーカーは安全性能が燃費性能と並ぶ「魅力」になる可能性がある、とみている。
実際に、いち早く取り組んでいるボルボや、「シティエマージェンシーブレーキ」を搭載するフォルクスワーゲン(VW)などの欧州車は、EUで2013年11月からすべての新型商用車で「自動ブレーキ」の搭載が義務化されていることもあって、この分野では先行している。
好調な売れ行きをみせる輸入車だが、日本で走る欧州車にも「自動ブレーキ」が一部で搭載されており、安全性能への関心が高い顧客層をとらえているとの見方もある。
自動ブレーキ、「ドライバーが誤解している」
その一方で、2013年11月に埼玉県深谷市で開かれた「自動ブレーキ」を体験する試乗会で、障害物を検知して自動ブレーキをかけるはずだった乗用車がフェンスに衝突し、2人が重軽傷を負う事故があった。
どんなシステムも操作ミスをすれば間違いが起こる。ただ、実際に事故が起こったとき、操作ミスだからといって自動車メーカーはそれを「知りません」とは言えない。それもあって、声高に安全性能を強調しにくいことはある。
現実に、「最近は『自動ブレーキ』という言葉がひとり歩きして、ドライバーが誤解しているようなところがあるようです」と、TIWのアナリスト、高田悟氏は話す。
高田氏は「開発が進み、いずれは標準搭載されることもあるのでしょうが、まだ時間がかかるでしょう」とみている。