「充実した時間だった。漁師さんたちがいきいきと活動しているのが印象的だった」。大槌町が開校した漁業学校で学んだ3人は口をそろえました。震災で打撃を受けた漁業の再興に向けて担い手を増やそうと、大槌町は1月14日から3泊4日の日程で「漁業学校」を開校し、漁師の養成に乗り出しました。町内外から3人が参加し、定置網漁を体験したり、魚の料理法を実習したりして、漁業の基本を学びました。
この体験講座に応募したのは、大槌町のIT関連企業に勤務する三浦健一さん(47)、愛知県岡崎市出身で遠野市に住む奈良寿昭さん(31)ら3人。
三浦さんは震災で、漁師をしていた父の央(なかば)さん(当時77)と、母ケイ子さん(当時73)を亡くしました。三浦さんは受講の理由について、「両親を奪った海は嫌いだった。しかし、いつまでも目を背けていていいのかと考えた」と語りました。震災直後から被災地のボランティア活動に取り組んでいる奈良さんは「大槌の海産物の素晴らしさを全国に伝える橋渡し役をやりたい」と抱負を述べました。
3人は、初日に、座学で漁業制度の仕組みを学びました。2日目には定置網漁を体験し、魚市場や大槌川さけ・ます人工孵(ふ)化場を見学、ロープワークや網の修理を実習しました。3日目にはホタテの水揚げ作業をし、魚のさばき方や料理法を学びました。
講座を終了し、三浦さんは「海に心を向けることができた。漁師になることを両親はきっと喜んでくれるでしょう」と、前向きになった気持ちを説明しました。奈良さんは「漁師の姿が具体的に見えてきた。都会で疲れた人たちにとって、漁師という職業は新鮮に映るのではないか」と指摘しました。
漁業は大槌町の基幹産業です。しかし、震災をきっかけに、旧大槌町漁協の経営が破たんし、漁協の組合員は859人から282人へと、約3分1に減りました。そのため、町が漁業に関心を持ち、漁師をめざす人を増やしたいと、体験講座を受講料、宿泊料無料で開催しました。今回の体験講座を経て、漁師をめざす受講者には、3か月間の長期研修や、2年間ほど漁師に弟子入りするコースが検討されています。
新おおつち漁協の阿部力組合長は「漁業は頑張れば収入につながるし、収穫の喜びもある。漁業に魅力を感じてほしい」と歓迎し、漁業学校を発案した大槌町の碇川(いかりがわ)豊町長は「町に定住し、担い手になって町の活性化につとめていただければうれしい」と期待しています。
(大槌町総合政策課・但木汎)
連載【岩手・大槌町から】
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