プラチナの取引価格が上昇している。米国の量的金融緩和の縮小が決まったのを受けて金に連動して値下がりしていたが、自動車向けの需要増を背景に買い戻す動きが目立つという。
東京商品取引所(TOCOM)の白金(プラチナ)先物(標準取引)は2014年1月21日、1グラムあたり4980円と高値を付けた。現物を扱う田中貴金属工業によると、同日の小売価格(税込)も1グラム5204円と、最近の1か月の最高値を付けた。13年12月2日以降、右肩上がりが続いている。
金が売られ、株式やプラチナに投資マネーが流れる
プラチナは流通性が低く、値動きが激しい。金の年間生産量は2012年に約2800トン、それに対してプラチナは金の16分の1程度の200トン弱しかない。産出量も金の17万トンに対して30分の1と希少だ。
また、プラチナは生産の7割超を占めている南アフリカ情勢の影響を受けやすい。さらに、大半が投資需要にあたり株価など金融市場の影響を受けやすい金に比べて、プラチナは自動車の排気ガスを浄化する触媒に使われるなど工業用需要が6割前後を占めるため、世界の経済情勢の影響を受けやすい、といった特徴がある。
一般に、「プラチナの価格は金より高い」とされるのは、その希少性ゆえ。ところが、金とプラチナの価格はたびたび逆転したことがあった。リーマン・ショック直後の2008年12月や、日本が金融危機にあった1997年1月がそれだ。「有事の金」といわれるように、世界経済に不安が強まると、金に投資マネーが流れ込む。半面、工業用需要が多いプラチナは、世界的に景気が落ち込めば需要が減退して、相場に下げ圧力が強まる傾向がある。いわば、プラチナ相場は「景気のシグナル」というわけだ。
最近のプラチナ価格の上昇は、2013年から米国の景気回復が強まり、米当局が危機対応の金融政策を正常化していく出口戦略に着手したことが背景にあるとされる。
金に「避難」していた資金が、株式や他の投資商品に流れるようになってきた。投資マネーの動きが「正常化」されてきて、その投資先の一つに「プラチナ」があるようだ。
いまの上昇は「南アの労使問題」がきっかけ
「金からプラチナ」の資金の流れは、はっきりしてきた。国際指標となるニューヨーク市場の金先物(中心限月)は2014年1月20日の時間外取引で1トロイオンス1260ドル前後、プラチナは同1460ドル前後を付けた。プラチナが200ドル(15.8%)ほど高くなり、欧州の債務危機が深刻化し、金がプラチナを上回った2011年8月以降、両者の価格差は最大だ。
米国の景気回復で金が投資対象に選ばれにくくなったのは確かなのかもしれない。ただ、「景気回復が(上昇の)要因ではありません」と、金融・貴金属アナリストの亀井幸一郎氏はクギを刺す。
プラチナは自動車触媒、なかでもディーゼル車用に利用されるケースが多いが、その主力の欧州市場の景気回復が鈍いためだ。
では、上昇の原因は何か――。亀井氏は、「南アフリカの労使問題が価格の刺激材料になりました」と指摘。「大手鉱山会社と労働組合との賃上げ交渉が難航して、労組がストライキの決行を決議したといいます。主力鉱山でストが始まるとの見方が強まっていて、それに伴い供給不足に陥るとみられています」と説明する。
プラチナは価格変動が激しい。リーマン・ショック後には1トロイオンス2300ドルから、一気に780ドルまで下落したことがある。「いまのプラチナの価格水準は1460ドル程度で、それほど無茶苦茶に高い水準ではありません。ただ、(南ア問題など)不確定要素が多く、いまは飛びつかないで見極めたいところですね」と、亀井氏は話している。