受験シーズンでしばしば起こるのが、大学入試の出題や採点ミスだ。中には合格発表後に指摘を受けて採点をやり直した結果、追加合格者が出ることもある。こうしたミスが全国の大学の約2割で起きていることが、文部科学省のまとめでわかった。
一つの大学で何回も受験できるなど入試方式の多様化が進み、作成する問題の数が増えている上、厳しい経営状況を背景に問題作成者への負担が増えていることが背景にあるようだ。出題ミスの中には、その存在がウェブサイトで公表されない「隠れミス」も相当数あるとみられる。
13年度は33校42件で合格発表後に追加合格
文科省では2002年度の入試から、入試の出題や採点、合否判定でミスがあった場合は速やかに報告するように求めている。それでもミスの数は全く減る様子がない。03年度には少なくとも110校で157件のミスが起こったのに対して、13年度入試では、153校で280件のミスが報告されている。件数ベースで最も多かったのは09年度の157校297件だが、その後も高い水準で推移している。14年度の入試でも、13年11月29日時点で20校21件のミスが発覚している。
13年度の学校基本調査によると、全国の大学の数は782(国立86、公立90、私立606)なので、大学全体の2割近くでミスが起こっていることになる。
特に増加傾向が顕著なのが私大で、03年度は58校86件だったものが13年度は119校233件になっている。10年間で学校数にして2倍、件数にして3倍に増えた計算だ。
「実害」も出ている。13年度は、合格発表後に追加合格を出すことになった入試ミスは33校42件にのぼる。
入試の出題ミスや参考書の誤記・誤植を指摘している、塾講師でつくる「全国入試問題研究会」(福岡市)によると、出題ミスを指摘して大学側がミスを認めたにもかかわらず、文科省に報告しなかったり、ウェブサイトで公表しなかったりするケースも多いという。
「採点をやり直しても合否判定には影響がなかった」というのがその理由のようだが、同研究会では(1)ミスを認めて謝罪しないのは、努力して試験に臨んだ受験生を愚弄(ぐろう)している(2)次年度以降の受験生がミスの内容をそのまま学習して誤った知識を身につける可能性がある、という点で大学側の対応を批判している。
経営苦しい私大は契約更新ちらつかせて「タダ働き」要求
ミスが増えている背景には、問題を作成する環境が厳しさを増していることがある。最近では、受験機会を増やして入学者数を確保するために、一般入試だけで3~4回受験できる大学も多い。規模が大きい大学では、文系3教科で8~9回受験できるところもある。その分問題作成の負担が増し、人員が足らなくなってチェックも行き届かなくなりがちだ。
特に状況が厳しいのは私大で、1問作成すると約20万円の手当が出る比較的恵まれたケースもある一方、財務状況が厳しい大学では、非常勤講師に対して次年度の契約更新をちらつかせながら無報酬で問題作成を要求するケースもあるという。問題作成者に無理を要求している分、品質も下がるリスクが高いという訳だ。
文科省が07年度に行った調査では、71校が問題作成を予備校や教育関連企業に外注したことが明らかになっている。この時点で文科省は、機密保持や中立性確保の面で望ましくないとして「自前」での作成を求めていた。ところが、6年後の13年4~6月に改めて調査したところ、外注した大学は98校と38%も増えていた。大学側の「背に腹はかえられない」状況がうかがえる。