企業が家計の増税負担を「肩代わり」
―― 政府は5.5兆円の消費増税の負担軽減策を講じましたが、それらは企業向けばかりのようですが。
嶌峰 たしかに政府の負担軽減策は、復興特別法人税の1年前倒しの廃止や、大企業の交際費の半額を非課税にしたり、設備投資した企業の法人税を軽減するよう措置したりと、どれも企業の負担を軽減するものばかりですが、企業が家計の負担を「肩代わり」すると考えればわかりやすいのではないでしょうか。
企業の負担は国が軽くする。その代り、給与所得者(家計)については企業が負担を軽減する。つまり、賃金をアップする。「企業偏重」との批判はありますが、家計への消費増税のショックを和らげるためには必要な措置ですし、こうした施策は、企業向けのほうが実効性が高いことがあります。もちろん、企業にはしっかりと「賃上げ」を実行してもらわなければなりませんが。
その一方で、低所得者層向けには現金を給付するなど、政府が直接的に家計負担を軽減することで景気の失速を防ぐ、というわけです。
―― 賃上げムードが高まってきました。
嶌峰 2013年冬のボーナスでは前年比3.47%増(経団連調べ)でした。景気がよければ、ボーナスは上がります。ただ、企業はまだ「いま景気がいいのは一時的」と思っていて、賃上げには慎重なのもたしかです。ボーナスで様子をうかがっているといったところでしょうか。
しかし、アベノミクスに必要なのは「持続的な賃上げ」、つまりベースアップです。賃金が上がれば、モノを買うモチベーションが上がります。モノが売れるので、物価も上がります。モノを「買いたいときに買う」環境を整えることが必要で、そのためには持続的な賃上げは欠かせません。
嶌峰 義清氏プロフィール
しまみね・よしきよ 第一生命経済研究所首席エコノミスト。青山学院大学経済学部卒、1990年岡三証券入社。岡三経済研究所を経て、92年日本総合研究所入社。この間、エコノミストとして各国経済を担当。93年日本経済研究センターへ1年間出向。94年以降、日本総合研究所へ戻った後は、米国経済・金融市場動向を担当。98年5月、第一生命経済研究所入社。日本経済担当、米国経済担当を経て、現在は金融市場全般を担当。2011年4月より現職。