米国のロバート・ゲーツ元国防長官が出版したばかりの回顧録「Duty(任務)」が、オバマ大統領を痛烈に批判したとして話題を呼んでいる。その中には、東アジア地域に関する記述も少なくない。中でも刺激的なのが、左派で北朝鮮に融和的な政策を進めていた盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領について「反米的で少し頭がおかしい」と振り返っていることだ。
この回顧録を報じる韓国メディアも「この性格描写を読んだら、韓国人はかなり驚くだろう」と不快感を隠さない。
李明博氏は「意志が強く現実的で、非常に親米的」
ゲーツ氏は2006年から11年にかけて国防長官を務め、ブッシュ前大統領とオマバ大統領に仕えた。回顧録は14年1月14日に発売され、軍を信頼しないオバマ氏に対して「憤慨した」とつづるなど、異例の大統領批判をしたとして波紋を広げていた。
東アジア関連では、韓国の2人の大統領に関する記述が際立っている。ゲーツ氏は、2010年6月にシンガポールで開かれたアジア安全保障会議の場で李明博(イ・ミョンバク)前大統領と会談したことを「おそらくシンガポールの個別会談では最も重要だった」と表現。李氏についても
「本当に李氏のことは好きだった。意志が強く現実的で、非常に親米的(tough-minded, realistic, and very pro-American)だった」
と絶賛した。盧武鉉氏については、李氏と対比させる形で、
「これはすべてにおいて前任者の盧武鉉氏と対照的だった」
と酷評。07年11月にソウルで会談した時の様子を
「反米的で、おそらく少し頭がおかしかった(anti-American and probably a little crazy)」
「アジアの安全保障上の最大の脅威は、米国と日本だと言っていた」
と振り返った。
盧武鉉氏は人権派弁護士として知られ、市民運動に支えられて当選。当選後は北朝鮮に対して融和的な政策を取った。これに対して李明博氏は現代建設社長やソウル市長を経て大統領に当選し、北朝鮮には強硬策で臨んだ。2人のバックグラウンドがあまりにも違うため、ゲーツ氏も2人のギャップに言及したようだ。
一連の記述に対しては、韓国メディアは
「鬼籍に入った外国の国家元首に対して率直に激しい批判をぶつけることについては、さらに論議を呼びそうだ」(聯合ニュース)
「在任中に会った同盟国の首脳に対して、このように露骨な非難を浴びせたのは極めて異例で、論議を巻き起こしている」(東亜日報)
と批判的に紹介している。
延坪島砲撃事件では韓国の強硬策を思いとどまらせる
回顧録では、10年11月に起きた延坪(ヨンピョン)島砲撃事件の内幕についても明かされている。ゲーツ氏によると、「韓国は30年間にわたって北朝鮮の挑発行為に対して抑制的に耐え続けてきた」が、10年3月の哨戒艦「天安」(チョンアン)沈没事件が「南側の姿勢に変化をもたらした」という。天安の沈没事件では46人も犠牲者が出たのに加えて、延坪島の事件では民間人も犠牲になったため、報復を求める世論が高まっていたためだ。そのため、韓国側は延坪島事件に対しては、非常に強い姿勢で臨んでいた。
「韓国の元々の報復案は、空爆と砲撃の両方を行うもので(北朝鮮側の攻撃規模と比べて)不釣り合いに攻撃的だと思った。交戦が危険な形でエスカレートすることを懸念した」
地域の不安定化を避けたい米国は、かなりの労力を使って韓国を思いとどまらせたようだ。
「オバマ大統領、クリントン国務長官、マレン統合参謀本部議長と私が数日間にわたって韓国側と電話会談した。韓国は、最終的には北朝鮮が事件を起こした砲台がある場所に単に砲撃するにとどまった」
日本に関する記述もある。記述はアフガニスタンの治安情勢が悪化した08年のもので、資金拠出を渋った日本への失望感をにじませている。
「(ブッシュ)大統領は私に対して、例えば日本のような軍隊(の派遣)で貢献しないであろう同盟国から、アフガニスタンの部隊の訓練や装備に対してより多くの資金を拠出してもらう必要があると言い続けた。その結果は最低限のものだった」