愛、希望、勇気、絆、仲間、笑顔――。震災以降、J-POPの歌詞のような優しくポジティブな言葉の多用が、若い世代を中心に広まっているという。2014年1月14日放送の「NHK クローズアップ現代」では、こうした「ポエム化」現象に焦点を当て、日本一の居酒屋を決める「居酒屋甲子園」の様子を伝えた。
ポジティブな言葉を叫ぶ居酒屋店員たちの姿が紹介されたが、その様子に違和感を覚えた視聴者も少なくなかったようだ。インターネット上には「衝撃的だった」といった声が上がり、反響が広がっている。
16時間労働でも年収250万円
「夢はひとりで見るもんなんかじゃなくて、みんなで見るもんなんだ!人は夢を持つから、熱く、熱く、生きられるんだ!」
金髪の若き男性が声を張り上げ、ステージ上で熱い思いをぶちまける。「居酒屋甲子園」の一風景だ。外食産業の活性化を目的にスタートしたこの大会は今や約1400店舗が参加する一大イベントに成長し、2013年11月に行われた第8回大会には5000人以上の来場者が訪れた。決勝で競われたのは、料理の味や接客ではなく、居酒屋で働く夢や希望を語る「ポエム」調のスピーチだった。
「変わりたい。今の自分は嫌だ!みんなから愛される店長になりたい!」と過去の葛藤を振り返り、目を潤ませながら訴える店長。「私にガンが見つかりました。どうして私が、なんでこんなつらい思いを…」と自らのつらい体験を打ち明ける女性店員。決勝に進んだ5店舗が、思い思いのスピーチで聴衆の心に訴えかけた。いくつかのスピーチはインターネット上の動画でも確認できるが、いずれも「感動」や「笑顔」、「仲間」、「感謝」といった前向きな言葉で溢れている。一緒に涙ぐみ、笑顔をみせる店員たちの姿も印象的だ。
「ポエム化」しているのは店員の思いだけではない。居酒屋の店内で、相田みつをさんの作品を連想するような毛筆で書かれたメッセージを目にしたことがある人も少なくないだろう。番組で取り上げたある居酒屋チェーンも、店内の壁やトイレ内の張り紙、取り皿など、至る所に「ポエム」が書かれていた。入社4年目の男性店員(27)は、客に喜んでもらうためにチョコペンを使って皿に自作のポエムを書き込むことに力を注ぐ。1日の労働時間は長い日で16時間になるものの、年収は250万円程度。ネット民からは即「ブラック」認定されそうな労働環境だが、本人は「楽しいんで」と言い、こうした働き方に満足している。