日本の経常収支が急速に悪化して、慢性的な赤字に転落する可能性が出てきた。財務省の国際収支状況(速報)によると、2013年11月の経常収支は単月として過去最大の5928億円の赤字となった。経常赤字は2か月連続だ。
経常収支は2012年11月から13年1月まで3か月連続で赤字になった経緯があるが、今回の2か月連続はそれ以来になる。
アベノミクスによる円安で輸入コストが増大
国の経常収支は、貿易収支と所得収支(日本企業が海外への投資によって得た収支)の合計で示されている。
財務省によると、2013年11月の経常収支は5928億円の赤字。その要因は、貿易・サービス収支が1兆3643億円もの赤字だったことだ。貿易赤字は20か月連続で、11月としては過去最大。赤字額は12年と比べて3690億円も拡大した。
このうち、貿易収支は1兆2543億円の赤字。輸出額は17.6%増の5兆6316億円。輸入額は22.1%増の6兆8859億円だった。米国向け自動車などの輸出が増えたが、原粗油や液化天然ガス(LNG)など燃料などの輸入額が増えた影響が大きく、10月に続き1兆円を超える赤字となった。旅行や輸送の動きを示すサービス収支は1100億円の赤字だった。
一方、所得収支は9002億円の黒字。黒字幅は前年比0.8%増と3か月連続で増えたが、1兆円には届かなかった。日本企業の海外への配当金の支払いが増えたことなどで証券投資収益が減ったが、直接投資収益は事業で得た配当金や支店収益などの海外への支払いが減ったため増えた。
日本の貿易収支はこれまで長く黒字が続いていた。ところが、バブル崩壊後の日本は円高が進んだこともあって製造業の利益が上がらなくなる一方、これまで儲けた外貨を海外に再投資し、その利子や配当で利益を確保するようになってきた。
2005年には所得黒字が貿易黒字を上回り、11年には貿易赤字に転落した。現在では貿易赤字を所得黒字でカバーすることで、最終的な経常黒字を確保している。それがアベノミクスによる円安で輸入コストが増大し、また予想したほど輸出が伸びないことなどから貿易赤字が拡大した。
経済アナリストの小田切尚登氏は、「長く経常赤字にある米国をみてもわかるように、経常赤字が必ずしも悪いというわけではありません。先進国は体質的にはどこも経常赤字です。ただ、日本の場合は急速な円安によって燃料も食材も高騰する『悪い経常赤字』になりつつあります」と指摘する。
政府が巨額の財政赤字を抱えていることや、少子高齢化の進展でデフレ圧力が再び強まることや貯蓄率が下がること、また産業の空洞化などのため、経常赤字への転落が金利の上昇とさらなる円安進行を招く可能性がある。
所得収支の黒字を増やすしかない?
経常収支を改善するためには、まず輸出を増やすか輸入を減らすかすることが考えられる。ただ、貿易収支の改善はエネルギー問題が背後にあり、時間がかかりそう。企業にとってエネルギーコストの高止まりは工場の海外移転の判断材料になり、そうなれば「輸入増、輸出減」の状況は変わらない。
そこでもっとも現実的なのは、企業の直接投資を進めて所得収支の黒字を大きく増やすこと。
前出の小田切尚登氏は、「そもそも円安ですべてを解決できるはずがありません。そういった(円安の)中でも、企業は海外投資を積極的に進めていくしかないですし、(米アップルやグーグルのように)ノウハウやソフトウェアで稼ぐことができるようにならなければなりません」と話す。