1ドル80円を切る超円高が続き、ここ数年で海外生産のウエートを高めていた製造業に、国内生産へ回帰する兆しがみえてきた。
キヤノンは、このまま円安が続くことを「条件」に、2015年までに一眼レフカメラなどのハイエンド製品の国内生産比率を現在の42%から50%へ引き上げたい考えだ。国内の雇用を増やす狙いもある。
円安の長期化、世界的な景気回復が「条件」
キヤノンは、海外工場の閉鎖や移管などは検討していない。円安基調の長期化と世界的な景気回復による「増産分」を国内生産でまかなっていく。
同社は「基本的に生産体制と為替変動は切り離して考えています。国内では製品の開発とハイエンド製品の生産を、海外では量産品の生産と、すみ分けています」と説明。現在の生産体制は維持する。
御手洗冨士夫会長兼社長は、日本の金融緩和や米景気の回復で円安傾向は当面続くとみていて、「中期的にはリーマン・ショック以前の1ドル120円の水準に近づいていく可能性もある」という。今後は円安メリットを享受できるようにするためにも、需要の増加分を国内生産で対応。結果的に、「国内生産比率を50%に上げていきたい」という。
2014年は海外需要の回復を見込んでいるが、当面は既存設備の稼働率を上げることで対応する。需要回復が続けば、ライン増設などの新規投資にもつながり、「国内の雇用確保にもひと役買う」と考えている。「日本製」ブランドを押し出せることも販売面では大きなメリットになる。
1ドル100円台が定着しつつあるなか、自動車や白物家電などにも国内生産比率を高めようという動きがみられる。
日本の自動車メーカーは、トヨタ自動車で年間約300万台、日産自動車やホンダで約100万台を国内で生産しているが、そのうちの約40~50%を輸出。そのため、ドルが1円円高になるとトヨタで400億円、ホンダで140億円の営業利益が減少するといわれる。超円高の2012年にはハイブリッド車(HV)や高級車種も含めた海外への生産移管を進めていたが、最近の円安進行で、生産移管計画の一部延期や国内生産力の維持・向上の方向に動き出した。
海外生産比率が高い東芝は、家電部門が赤字
家電メーカーでは、ダイキン工業が中国の珠海格力電器に年間80万台規模で委託している国内向け家庭用エアコンのうち25万台分の生産を、滋賀県の自社工場に移管する。また、1990年代から生産の海外シフトを進めてきたパナソニックは洗濯機や冷蔵庫などの生産の一部を、中国などから国内に戻す準備を進めている。
1ドル105~107円より円安で推移することになれば、現在約7割の海外生産比率を、5割程度に下げることも考えている。同社の白物家電の大半は国内向けで、輸入コストの上昇で採算が悪化し、これまでのような経費削減などでは補えなくなってきている。
家電メーカーでは、パナソニックのように海外で生産した製品を国内で販売しているメーカーが少なくなく、円安による影響が収益に表れてきた。
白物家電の海外生産比率が9割と高い東芝は、家電部門の13年4~9月期の営業損益が64億円の赤字と、前年同期(21億円の黒字)から大きく悪化した。シャープも苦しい。その一方で、国内生産の多い三菱電機は2014年3月期の家電部門の営業利益で倍増が見込めるほど好調だ。