制度の形骸化では、の声
国会図書館と有識者の見解では、どちらの書籍に関しても著作権保護期間が満了しており、法的問題は生じていない。では一方はネットでの公開再開、もう一方は館内閲覧に限定した判断の根拠は何か。資料では論点の1つとして「商業出版への影響に対する考慮」が挙げられた。
『大正新脩大蔵経』に関しては 大蔵出版が復刻版を刊行してから、「投資コストの回収期間としては十分な期間が経過している」と判断した。また、東京大学大学院の大藏經テキストデータベース研究会も同書の印刷版面をネット公開していることに触れ、国会図書館が大蔵出版への売上に直ちに影響していると断定できない、としている。
一方で、ネット公開が停止され館内限定の提供となる『南伝大蔵経』は、オンデマンド版が2001~2004年と比較的最近に刊行されたばかりで、「投資コスト回収に一定の考慮をすべき期間内である可能性」がある。加えて、国会図書館以外で無料ネット公開されていないため、「出版事業の維持に直接の影響を与える可能性を現時点では否定できない」ことから、以上のような結論に至った。
ただし、考慮の基準について国会図書館は「事例が不足している」という認識であり、今後も検討を継続する必要があるという考えで、『南伝大蔵経』の停止措置も一定時期をおいて改めて見直す考えだ。
出版社側の要求に対してネットでは、
「商業刊行中でも青空文庫で読める作品はたくさんあるけどねえ」「制度の形骸化じゃないのか。他の知財では考えられない。権利切れの知財で商売しようとして他からでて死ぬなんてのは経営がマヌケなだけじゃん」
など批判的な意見が少なくない。
慶應大学大学院メディアデザイン研究科の中村伊知哉教授は、
「著作権フリーコンテンツを巡る公共とビジネスの線引き。制度論よりも悩ましい問題」
とツイートしている。