売り上げの低迷に苦しんでいる牛丼チェーン大手のうち、吉野家ホールディングスの「吉野家」が一歩抜け出しそうだ。2013年12月に発売した「牛すき鍋膳」などの高単価の鍋商品が当たった。
一方、牛丼の最安値セールで集客を目論んだゼンショーホールディングスの「すき家」の12月の既存店売上高は前年同月に比べて4.7%減と振るわず、明暗が分かれた。
単価引き上げ、女性・家族連れ・シルバー層の開拓に手応え
吉野家HDが2014年1月6日に発表した「吉野家」の13年12月の既存店売上高は、前年同月比16.0%増と大幅にアップ。伸び率は、19.8%増を記録した2007年9月以来の高い伸びとなった。客数も18.0%増と大きく増えた。客単価は1.7%減だったが、13年4月に牛丼を値下げして以降、下げ幅は最も小さかった。
吉野家の好調を支えたのは、12月に発売した新商品「牛すき鍋膳」と「牛チゲ鍋膳」。固形燃料入りの卓上コンロに鍋をのせて提供するスタイルで、「うまい・やすい・ごゆっくり」(安部修仁社長)という新たなコンセプトに基づいた戦略商品。並盛り(ライス付)で580円と牛丼より300円高いが、「発売後、急速に気温が下がって鍋への関心が高まった。タイミングがよかった」(吉野家HD)こともあり、売れた。
「牛すき鍋膳」などの投入には、「客単価の引き上げ」の狙いがある。「1人鍋需要」を掘り起すため、13年9月に1人鍋専門店「いちなべ家」をオープン。そのノウハウも生かした。
また、吉野家は11月に、「小盛」の牛丼とサラダと組み合わせた、栄養バランスがとれた女性向けの「コモサラセット」を発売。ヘルシー商品の充実で女性や家族連れの取り込みを狙った。今回の「牛すき鍋膳」と「牛チゲ鍋膳」はその延長線上の商品といえ、落ち着いて食事を楽しんでもらうことで、シルバー層やリピーターの獲得を目論んだとみられる。
吉野家HDは、「いろいろと試行錯誤しながら、よいものをブラッシュアップして、ニーズにあった商品を提供していきたい」と、手応えを感じているようだ。
消費者は多少値段が高くてもニーズにあった商品にひかれる
「牛すき鍋膳」などの投入が功を奏した吉野家に対して、ゼンショーHDの「すき家」の2013年12月の既存店売上高は前年同月比4.7%減。これで28か月連続の前年割れとなった。
すき家は12月20日~26日に全店で牛丼商品を一律40円値引きするセールを実施。牛丼並盛りの価格は同社で最安値の240円に設定したが、客数は5.5%減り、値引きによる集客効果は乏しかった。
また、松屋フーズの「松屋」の既存店売上高は0.1%減とほぼ前年並みだったが、前年割れは21か月連続。客数も1.8%減った。ただ、牛丼のトッピングに力を入れることで、客単価は1.8%増えた。
牛丼チェーンは値引き競争で疲弊したうえに、円安の進行による原材料高が追い討ちをかけるなど、厳しい経営環境が続いている。そうした中で、いかに利益を上げていくかが注目されたが、12月をみる限りでは、消費者は多少値段が高くても、ニーズにあった新商品にひかれるようになり、「安売り」で集客力を高めるデフレ時代の販売戦略は通じなくなったようだ。