保険グループ大手、「NKSJホールディングス」傘下の損保ジャパンが、英国の中堅損保「キャノピアス」の全株式を約1000億円で買収する。2013年12月18日発表した。
2014年4月末に株主の投資ファンドなどから株式を取得するもので、損保各社は国内で主力の自動車保険が「利益なき事業」を脱せない中、海外に活路を見い出す戦略を加速させている。
ノウハウを吸収して今後の世界展開に生かす
キャノピアスは欧米の企業向けの火災保険や船舶向け海上保険などを販売するほか、英国の個人向け火災保険などを手がける。2012年の保険料収入は約1100億円、最終利益は約80億円。英国で「ロイズ」と呼ばれる伝統的な保険市場の一員として、世界中のリスクに対して保険商品を提供してもいる。
損保ジャパンによる買収後もキャノピアスの500人超の従業員は引き継いでそのまま事業を継続。豪州や英領バミューダといった拠点も活用する。損保ジャパンはキャノピアスの保険ノウハウを吸収して今後の損保事業の世界展開にも生かそうという狙いだ。
国内の損保会社は、損保ジャパンと日本興亜損保を傘下に収めるNKSJのほか、東京海上ホールディングスとMS&ADグループ(傘下に三井住友海上とトヨタ自動車・日本生命保険系のあいおいニッセイ同和損保)の3グループに集約されている。3グループとも海外に軸足を移し始めており、東京海上は2012年に米デルファイを2000億円超で買収、MS&AD傘下の三井住友海上もインドネシアやインドの生損保に出資するなどの動きが起きていた。NKSJはブラジルやトルコなど小粒な保険会社の買収にとどまり出遅れ感が否めなかったが、ようやくキャノピアス買収案件をまとめて大規模投資に踏み切った、という状況だ。
国内自動車保険は儲からず赤字基調
損保各社が海外展開を急ぐ背景には、主力の国内自動車保険が儲からず赤字基調が続いている事情がある。交通死亡事故自体は減っているのだが、事故による後遺症の補償や車の修理費用などが以前より高くなっているのに対し、収入となる保険料が追いつかないことなどが影響している。
こうした「構造問題」の証拠として指摘されるのが、規制緩和で「生損保の相互参入」が認められて誕生した損保系生保と生保系損保の状況。損保系生保が医療保険などでよく稼ぎ、グループの収益を支えているのに対し、生保系損保はうまくいかず大半が撤退してしまった。「事故対応で手間がかかる割に実入りが少ない」(大手生保幹部)という。
2014年4月の消費税増税で事態はさらに深刻化する。契約者が支払う保険料には消費税がかからないが、自動車の修理費用など損保が払う保険金は増税分の支払いが増えるためだ。業界全体では1000億円を超える負担増になるとも言われ、保険料の値上げも不可避と見られている。
ただ、海外に活路を求めざるを得ないとは言っても、ビール各社などの例が示す通り、必ずしも海外企業の買収が成功するわけではない。「高い授業料を払っただけ」に終わらないために、難度の高い戦略を迫られている。